聖夜の夜に祝福を。

ジングルベールジングルベール♪

 

クリスマスシーズンで派手なイルミネーションとやたら陽気な音楽の流れる夜の街を
買い物をあらかた終え、紙袋を抱えた女ヒューマンが一人。

「本気でこの時期は肉類が高くて参るわね・・・。今年外出多いのが救いだわ。」

 

ヨハネス・パブテスマ。親しい仲間には「セイクレッド」と呼ばれているプロフィットである。
ハーディンの私塾に居候を始めて数十年目のクリスマスイブ。相変わらず毎年恒例に
今年も少しだけ豪華な食事だけはしっかり用意しようと買い物に出てきたわけだが。

 

私塾の主、ハーディンは今年は何かの研究の為にルゥンの方に調査に行ったまま戻りそうにない。

弟子たちもこの寒い中、早めの春の訪れた連中が外食の連絡を数日前に半数近く入れてきている。

私塾の家事を1手に担っているセイクレッドから見ると今年のクリスマスは例年よりご馳走の量が減ってくれて

楽といえば楽だ。

同時に、「私塾内禁煙禁酒」とハーディンがやかましいので普段は外へ出て洞窟の上で寒い中一人酒を飲むセイクレッドとしては室内で飲んでいても文句を言う奴もいない。

 

「今年はINESSで飲み会はやらないみたいだし・・・新年会かしら。連中が集まるのは。」

 

いつも通りのデーモンローブで街を歩きながらそんなコトを考える。

毎年のパターンだと、元盟主であるヨハネが数日ずれて「パーティやるよーヽ(´ー`)ノ」とか言い出す所だが
今年は

 

「ティアのトコのクリスマスのお手伝いで賛美歌弾いてくるー」

 

と、元INESSでクリスチャンであるTIAZINHAのいきつけの教会の手伝いでここのところ忙しそうだ。
オルはオルで

 

「なんかねー、B20で飲み会やると思うー。」

 

と言っていた。最近私塾に増えた居候コンビこと、サクラ&ユキは

 

「ミニスカサンタのコスして、ケーキ売るバイトしてくる。で、俺は中で包装のバイト?」

 

と小銭稼ぎに出かけていて何時に帰ってくるかも分かったもんじゃない。
ここ数年、ある血盟に所属していたコトもあり久々に一人好き勝手に過ごすクリスマス。

 

 

「ブラックウッズ、出来ればリミテッドエディションまだあるかしら?」
「おー久しぶりだなーねーちゃん。最後の一本だぜ、運がいい。」

行き着けの酒屋で手荷物が多いコトもあり混みぎみの店内をうろつくのは諦めて店主に声をかける。

「あら、じゃそれ頂くわ。他に何か入ってる?」
「ボウモアの26年モノがあるが」
「あれ高いでしょ。」
「クリスマス特価で20kでどうだ?」
「パス。もっと若くていいわよ。」
「なら12年が3kちょっとだなー。」
「じゃそれもちょうだい。」

書いてる方も疲れるような会話をしつつ会計をさっくり済ませる。

「こいつはサービスだ、クリスマスだからな!メリークリスマス!」

店の親父が笑顔で(今気づいた、このおっさんサンタ帽子被ってやがる)袋に小瓶を見せてから入れてくれるのを
軽く笑って「どーも」と言ってから店を出る。
流石にクリスマスイブの夜だ。カップルがこのギランにも増えてきた。が、それは気にならないが
酒屋から出て斜め前のケーキ屋の前で

  

 

 

  「めりーくりすまーす☆ケーキいかがですかぁ?」

 

 

と、いつもからは想像も出来ないカワイイ声で某カマエルの小娘がゴスロリミニスカサンタで愛想を振りまいてる方が気になる。

「あの服は誰の趣味かしら・・・・ユキくん・・・?」
軽くあきれながらもバイトを頑張っているのをチラ見して買い物忘れもないだろうとGKへ向かって細路地を近道で進むとある小屋の前で騒ぎ声がする。

 

「ま、まてそれは大切な・・・!」
「一枚くらいいーじゃねーか爺さん」
「そーだそーだせっかくのクリスマスだしなぁ?」
「返してくれ!それは今日の為に・・・・」

 

その声に少しだけ覗き込み少し考える。

「あーあ。またこういうめんどくさい所に遭遇するのは血筋かしら。」

そう思ってから小屋の中でヒゲの老人が数名の男に蹴られているのを見て見ぬフリをするのは
オークとのハーフである自分の血の誇り的にNGだと判断してつかつかとデーモンブーツを鳴らして中に入り。

 

「邪魔するわよ。」

 

そう一言言うと荷物を左手に抱えたまま、蹴りを入れていた男の一人に容赦なく右手で裏拳を飛ばす。

 

「な・・?!」

一瞬空気が固まる。

「お・・・女がなんでこんな所に入ってんだ?!」

「外まで丸聞こえでうるさかったからよ。大丈夫?」

老人の横に立つと声をかける。

「あ・・・あれを!あの封筒を!」

そう、老人が指差す先には先ほどふっとばした奴の手に数枚の封筒。

 

「・・・・オッケー。」

そうつぶやくと再びブーツを鳴らし歩き出し一度男の横を素通りしてから
小屋の外の花壇の縁に荷物を置いてから

 

『は?』

 

という顔をする連中を無視して小屋の入り口で「ハーッ!」と軽く声を出して
一瞬で間合いに踏み込み立ち上がろうとしていた男の手から封筒を引き抜き。
何事もなかったように老人の元へ戻り差し出す。
その時気づいたが、老人の周りには箱やら着替えらしき荷物が散乱している。

「ふーん。」

何かを一人で納得したようなため息をつくと体を起こし自分の左耳のピアスを触りながら言う。

「大事なモノは肌から離さないコトね。・・・さてと。」

あまりに予想の斜め上を行くセイクレッドの行動と機敏性に呆然としていた男たちを見直る。

「この場は解散、ってしてくれるとこっちとしても手間が省けて助かるんだけど。まだやる?」

腰に片手を当てて余裕な顔を見せると色々傷つけられたプライドがあるらしく相手らもそのまま引き下がる様子はない。
何の構えかは知らないがポージングした連中を見て「ああ、2次転職したてってところかしら。」そう冷静に見る。

「デーモンローブって事はWIZだろ?!素手のWIZ相手ならやれる!」

「そ、そうだな。やっちまえ!」

ありきたりなセリフに少しため息をついてから。

「いいわ。相手になってあげる。外出なさいなボウヤたち。」

そう告げてニヤっと笑う。


〜数分後〜

「ふー。」
動いて暑くなったらしく上に羽織っていた黒のロングコートをあらかじめ外に置いておいた買い物袋の上へと置きセイクレッドは振り返る。

 

 

「でー。まだやるわけ?気絶させない程度に手加減するの疲れるんだけど。」

 

 

その目線の先には無残に路地に散らばった男たちの姿。

「な・・・なんでそんな・・・・。」

WIZだと予想していた相手から見れば予想外すぎる動きであっと言う間に全員を吹っ飛ばした目の前に余裕の顔のまま立つ

デーモンローブセットの緑眼のヒューマン。メイジにしては背が少し高いコト以外は何の変哲もないはずだった。

「聞かれなかったから言わなかったけど。この服は趣味よ。動きやすいから。」

そうデーモンの裾を払いながら言う。

「ついでに言うなら本職はプロフィットだけど今サブクラスでタイラントなのよね。私。」

小屋からこちらを覗きながら唖然としている老人に倒れる男たち。その状況でやるには中々恐怖を掻き立てる笑顔を向けセイクレッドは続ける。

「そうね、こうしましょう?これから5数える間に私の目の前から消えなさいな。そのくらいの気力残るくらいの手加減はしてあげてあるはずだわ。」

手首を軽く回してから太もものベルトのロックを外しホースの下に隠していたナックルを手に取る。

「これ以上続ける気ならこっから手加減ナシよ。ついでに我が家の家系では男の罪人の処罰は切るって事になってるんだけど。問題ないわね?」

さりげなく恐ろしいセリフを吐いてから青くなった男たちの反論の声をさえぎる

 

「いーち。にー。」

 

「ちょ、ま・・・・」

 

「さーん。」

 

「ど、どうすr」

 

「どうするったって・・・・」

 

「よーん。」

 

「だ・・・ま・・・・」

 

「ご・・・・」

 

『だあああああああああああああああああああ』

走り出す男たちを目で見送りながらセイクレッドは愉快そうに笑う。

 

「GodBlessYou(神の祝福のあらんことを)」

 

そう、男たちの背中に声をかけてから老人を再び見る。

「怪我は?あるようならちょっとプロフに変ってきてヒールするわよ。」

「い、いや大丈夫だ感謝する・・・。」

「ただの気まぐれよ。気にしないで。」

そう言いながら置いていたコートを羽織り買い物袋を手に取る。

「そうね・・・でも貴方も色々事情があるんでしょうけど、ここはやめておいた方がいいと思うわ。」

そう哀れむような眼を向ける。

「・・・・は?」

老人の「え?」って顔をろくに見もせずにセイクレッドは続けた。

「この寒い中ホームレスが大変なのはわかるけど少し邪魔になるわね。そうだわ。これあげる。」

そう酒の紙袋から先ほど店主にもらった小瓶を差し出す。

「私、米酒は吟醸以上しか飲まないから。少しは体温まるわよ。安全に行けるならDVの橋とかガケの辺りとか人気ないからこんな騒ぎにはなりにくいと思うの。」

何かを勘違いしたセイクレッドの言葉に老人はどっから説明しようかと迷ってる間に、荷物を持ち直し終わったセイクレッドはその場を去る準備を済ませた。

「じゃ、よいクリスマスを。」

説明する間も与えず一方的に言い放つとスタスタと何事もなかったようにセイクレッドは歩き出す。
この人はそういう人だ。

 

 

 

 

 


〜ここから先日の日記に繋がります〜

 

 

 

「メリークリスマース!」

 

クリスマス当日。家事が思いの他暇だったからという理由で聖者の渓谷で一人、村で配っていたトナカイを連れて狩り中だったセイクレッドは固まる。

 

「貴方、昨日のホームレス・・・・」

 

「ちがああああああああああう!」

 

完全に思い込んだセイクレッドに流石のサンタクロースもツッコミを入れた。

 

「え、は?」

 

「昨日は助かった、ありがとう。しかしだなーゴッホン。」

 

そう咳払いをしてからサンタは苦笑を浮かべる。

 

「ワシは着替えていた所を若者たちに絡まれてしまっただけでな、

 

 

    別にホームレスでも公衆トイレに宿泊しようとしてたわけでもないぞ。」

 

 

そうだ。昨夜セイクレッドがツカツカと踏み込んだ小屋とは

公衆の男子トイレである。

 

「・・・あらそうだったの。それは失礼したわね。」

 

さらっと言われサンタもまぁ分かってくれたならヨシと再び笑顔を見せる。

 

「というわけでメリークリスマス!プレゼントじゃ!」

 

そう渡された袋を見ながら、セイクレッドが今度は苦笑を浮かべる。

 

「私、これでも50年以上生きてるんだけど?よい子って呼べる年でも人生でもないわ?」

 

「なら、昨日の酒のお礼という事にしといておくれ。返品は受け付けないのがサンタクロースじゃからな?」

 

「・・・そ。じゃありがたく。」

 

元々アインハザードを信仰する家系であり、本人も心は無宗教なセイクレッドの

生まれて初めてのクリスマスプレゼント。

それが今年手渡された。

 

「それじゃまた来年な!お嬢さん!」

 

空を飛んで行くサンタを眺めながら少し笑ってからトナカイの頭を撫でる。

「・・・なかなか悪くないものね。クリスマスってのも。」

 













・あとがきらしきもの・
2009年クリスマスイベント(公式)で思いついたものです。