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夜のアイホバンド魔法学校。

時刻は夜の0時を少し回ったあたり。

暗い廊下を二つの影が警戒するように時々立ち止まり

少しづつ、図書室への進む。

「おねーちゃん、やっぱりやめようよぉ。」

話せる島には珍しいオークの少年が目の前を歩く

少女に声をかける。

年は8つやそこらだろう。

目の前の少女はオークには珍しい黒い瞳の少年を振り返り、

溜め息をこぼす。

「あのねぇ・・・勝手について着て文句言うんじゃないの。」

長い黒髪をポニーテールにした、キツい緑の目の少女。



名前はヨハネス=パブテスマ。年は12。

のちにある血盟で「セイクレッド(神聖)」と呼ばれる

彼女である。









「見つかったら怒られるよぉ?それに鍵かかってるだろうし・・・。」

そう情けない声を上げる弟にしっと口元に手袋をした指を立ててみせる。

「物理的な鍵ならヘアピンで十分。問題はあの魔法結界の方よ。下手なはずし方したら術者にばれるわ・・・。」

壁に寄りかかり、既に見える位置にある問題のドアを見ながら

考える仕草をしてみせる。

「それに、そんなに古い本読めるの?大神官様だって読めなくて保管してる本なんでしょ?」

無鉄砲な姉と反対に慎重派な弟を振り返らずセイクレッドは

じっとドアの方を伺っている。

「・・・また聞いてないし・・・。」



事の発端は先週のセイクレッドの受けている歴史学の授業。

講師である神官の話であった。

アインハザードの素晴らしさを延々と語っている退屈な授業。

心の中で『そんなんもう分かったから。』とか思いながら

早く昼休みにならないかと窓の外をぼんやり見ていた。

その時、ふいに講師から零れた言葉だった。

「・・・というわけだ。まぁ・・・もしかしたらこの歴史は

近いうちにひっくり返されるかも知れないがね。」

その言葉に他の生徒が反応した。

「どういう意味ですか?」

耳から耳へと授業内容を流していたセイクレッドも若干

視線を移す。

「いや、最近遺跡から見つかった書物からそれより以前の

歴史に関する文が出てきたらしくてねぇ。」

それ以上は、別の生徒が尋ねても詳しくはまだ解読されていない、その一点張り。



他の生徒は「あるわけがない」そう意見がまとまったらしく

鳴った昼休みの鐘の音でバタバタと各自が昼食のグループを

作り始めたが、セイクレッドだけは腑に落ちなかった。



そう、あるわけがないのだ。

世界は一つの球体から始まり

その中から形を成した二つの命・・・

光の神アインハザードと闇の神グランカイン。

それが全種族、全宇宙の始まりである。

そんな事、この世界の生きるもの全ての常識。

それより以前の歴史などが存在するわけがないのだ。



ではなぜ、自分の血筋パブテスマは多種族との交配があっても

尚、力は劣化せず、なおかつ自分という過去最高能力者が

生まれたのか。

全ての種族は光闇の神々の子が元となっている。

水、火、大地、風、死

本来なら純潔種族が最高能力者になるはずで

他種族との混血であれば、力は劣化するのが妥当な所。

それがなぜ、本来ヒューマンの家系である「パブテスマ」

の血筋で、オークとの混血の自分がこれだけの力を持つのか。

家系図を見れば、他にもDEやらエルフやらチラホラ見当たる。

その疑問を口にする度に

「アインハザードに祝福された娘」

そう言われ、ここまで生きてきたが

本当にアインハザードに祝福されているのか。

頭のどこかで「違う」そう強く響くのは何故なのか。





翌日、いきなり大神官に直接話を聞きに向かったが

パブテスマの長女とはいえまだ12歳の少女の問いに、

さほど真剣に答えてくれるはずもなく。

実際にその本を見せて欲しいと頼んでも

「呪いなどがあるかも知れないだろう?」

と大人の都合丸出しで追い返され。

ただ、得られた情報は象牙の塔の高魔法使いたちの総力を

持っても解読されていない事と

不本意ながら再来週魔導師ハーディンに解読を以来する為

ギランへと輸送される事。



血が騒ぐ。そういう表現が一番合っているのだろうか。

歴史学、古代語学、考古学。そのあたりはセイクレッドの

得意分野。

好きなものこそ上手なれ。

まさにその言葉の通り彼女は大人顔負けの知識を持つ。

もっとも、自分の位置のようなモノが脅かされる気がして

それを大人の前でひけらかすような真似はしていないが。



そこから一週間と少し、寝る間も惜しんで大量の本を読み

その間調べた問題の禁断書庫に結界があるという情報。

自分の出来る限りの猛勉強で古代語と結界解除の魔法を

叩き込み、そして輸送予定前々日である今。

ここ、アイホバンド魔法学校に無理やりついてきた弟を従え

忍び込んでいるわけである。





「・・・よし。」

しばらく考え込んでいたが、ふいに顔を上げて扉に近づく。

「あんたはそこから動くんじゃないよ。」

そう言って、ドアから3mほど離れた場所で足を止める。

深く息を吸い、静かな声で言葉をつむぐ。

『夜の闇は全てを覆い、光すらも眠りにつかん。

夜は安らぎを与え全てを許し、大いなる神の腕と通ずる』

そう紡いだ瞬間、目視化された結界の中央に道が出来る。

弟にチョイチョイと指でこいと合図すると今度はドア自体の

鍵穴に自分の髪を止めていたヘアピンを突っ込む。

重々しいドアをいとも簡単に開けると後ろにきた弟を先に

扉の向こうへ投げ、その真横に膝をつき床に手のひらをつける。



『立ち上がりし炎よ、悠久を渡りし風よ、世界を流れし水よ、生命を育みし大地よ、

昼の陽は猛る命を守り、夜の月は安らぎをもってその命を浄化せん。

我神聖の魂はその歩、進めし全ての道を浄化し、聖域となさん。

命は生きる為に、想いは遂げる為に等しく等しく全ての者に与えられん。

ならば、届かぬ想いを紡ぐは洗礼師の定め。

パブテスマが聖女、ヨハネスの名を持って今、その理を成す・・・・!』



図書室内部の空気が一気に変わる。

「お・・・おねーちゃん今の呪文って・・・」

「うちの最強スキル、聖域(サンクチュアリ)」

「なんで使えるの?!お母様だって使えないのに?!」

「知らないわよ。なんか使えるのよ昔から。」

そう言いながら誰かの結界の中に神聖領域を作り終えると

図書室の奥の扉の前に立つ。

「ここも結界か・・・・随分厳重よね・・・・流石に。」

そう言いながら口元に手を当てる。

「クリス、戦闘準備しておいて。なーんか出そうな気がするんだわ。」

「えええええ止めてよぉ。ボクまだろくなスキル覚えてないんだよぉ?」

半べそになる弟を無視し、足を一歩踏み入れる。



ギャーーーーーー



「やっぱり出た。」

「イーーやーーーだーーーーーーーーーー!!!!!」

目の前に出たスケルトンとゾンビを見て冷静に言うセイクレッドと

そして逃げようとして姉に首元を掴まれ暴れる弟。

「パブテスマがアンデット相手にびびってんじゃないの。やるよ、クリス。構え!」

泣きながらもアンデッドよりよっぽど怖い姉の言う事に渋々構える。


「せーのっ!」

『A tool de rizahan lilic!!!ディスラプトアンデッド!!!!』

見た目はオークと言えど弟クリスも神聖生物パブテスマの血族。

幼くともディスラプトアンデッドくらいは使える。

過去最強能力者と言われるセイクレッドには及ばないものの

下手なクレリックよりよほど強力な対アンデッドスキルを使いこなす。

「もうやだぁぁぁぁぁぁぁ。」

そう泣きながらも前にずんずん進む姉の服を掴んで後ろを歩く。

「大丈夫。これ以上は出ないわ。ただ多分今ので侵入はバレた可能性は高いわね。

急ぎましょう。」

そう言って再びヘアピンで開けた扉を開け、ガラスケースにしまわれた問題の本へと

近づく。

「これか・・・よいしょ。」

特にトラップもないのを確認してさっさとページをめくり始める。

「灯り頂戴。」

「うう・・・はい・・・。」

そう言いながらライターで姉の手元を照らし自分も覗き込む。

「・・・・何この文字・・・見たことない・・・・。」

そう呟く弟をよそにセイクレッドは次々とページをめくる。

「おねーちゃん・・?」

夢中でページをめくるセイクレッドを見る。

目を細め、険しい顔で必死に読むセイクレッドを見て「邪魔したら殺される」そう思い

だまって見回りがこないか周辺の注意をする事にする。

やがて、あるページでセイクレッドの手が止まる。

「・・・どういうこと・・・・まさか・・・・。」

「どうしたの?」

そうクリスが尋ねたときだった。



カツカツカツ・・・



開けっ放した全ての扉の向こう、廊下の辺りの靴音。

「うわっきたっ」

そう言ってあわてる弟に構わず冷静に本を閉じガラスケースをかぶせ

「静かに、こっちよ。」

そう言って禁断書庫の扉も再び鍵を閉め、メイン図書室の本棚の後ろへと弟を隠し

自分はそっと廊下との扉を閉じ、司書台の中へと隠れ聖域を自分と弟の位置だけ残し

他のエリアを解く。



ギィ・・・・



「・・・・」

ランプを持った恐らくは警備兵か何かだろうが入ってくる。

距離の離れた位置で息を殺し出来るだけ気配を消す。

「鍵のかけ忘れか・・?リアナ様に確認してくるように言われたが・・・

特に問題はないようだな・・・。」

そう独り言を言い、しばらく図書室をうろうろしてから警備兵が出て行くのを確認して再び聖域の範囲を

広げる。

「クリス、出るわよ。生きてるかい?」

そう言って本棚の影で固まってる弟をひっぱり上げる。

「・・・・早くおうちに帰ろうよぉ。」

恨めしそうになみだ目で見上げる弟に笑う。

「だから帰るって言ってるじゃない。」

そう言って扉を開け、結界騙しの魔法を再び使い廊下に出る。

もちろん扉の鍵をかける事も忘れず。

昼間鍵をかけずにおいた教室の窓から侵入する時と同じように出ると

一目散に家まで走る。

「お母様気づいてないかなぁ。」

「大丈夫。お母様たちの夕食に睡眠薬仕込んでおいたから問題ナシ。」

「・・・おねーちゃんやりすぎだよ絶対・・・。」



無事に子供部屋に窓から入り、ベッドの上に腰を下ろす。

「あぁ・・・もう生きた心地しなかったよぉ。」

そう言って二段ベッドの下、自分の寝床にうつぶせに倒れる弟に呆れたような声を上げる。

「あんた本当にお父様の子?このくらいでびびってたら攻城戦なんてやれないわよ?」

そう言って横に座る。

「・・・・デストロイヤーは泥棒の真似なんてしないもん。」

「あーはいはい。」

そう言いながらとっとと寝巻きに着替える姉に習いクリスも寝る支度に取り掛かる。

「そういえばおねーちゃんあれ読めたの?」

上の段に上がった姉を見上げて言うとセイクレッドは「はぁ?」という声を上げる。

「普通に読めたわよ?パブテスマの神聖文字と大して変わらなかったじゃない。」

そう下の段へと顔を出し言うと今度はクリスが「はぁ?」という声を上げた。

「どこがどう・・・・ボクには全然読めなかったんだけど・・・。」

「嘘ぉ、私勉強無駄になったと思ってかなり気抜けたわよ?」

話が食い違っている。そんな感じだった。

「・・・・変なの・・・。」

そう呟く姉に弟は尋ねる。

「結局何が書いてあったの?」

「え?ああ、うーん・・・・・・アインハザードとグランカインが生まれる前の歴史・・・・

その二神の分裂したっていう球体が別の神によって・・・・」

そこまで言ったところで。



「いつまで起きてるの?今何時だと思っている?」

そう言ってノックもナシで部屋のドアを開けられる。

「げ・・・・。」

「ごめんなさいっ今寝ますお母様っ!」

慌てて各自のベッドにもぐりこむ。

「明日の朝寝坊したら朝食抜きですからね。」

そう言って出て行く母リリス。

「クリス、話の続きは?」

「・・・寝坊したくないからいい・・・。」

「あそ。おやすみ。」

「おやすみなさい。」

そう再び出した頭を自分の枕の上に乗せセイクレッドもやがて眠りについた。





『アインハザードとグランカインを生み出した球体を作り出した天使・・・

7体の天使。天使たちがアインハザードとグランカインに任せたこの世界を

監視者として月から見守る者エルデ・スリエル。

制御者エルデ・オノエルと共に視察の為降りた混沌に支配されたこの世界を憂い、

やがて他の天使たちの止めるのを振り切りこの世界を長い時間旅したのち

ある者に自分の力の半分を分け、その力を持ってこの世界の柱として

この地に封印され。

スリエルの妹であったオノエルは自分の魂を二つに分け、一つを月へと返し

一つをスリエルの力を護る為に一人のシーレンの子供へと封じた。

 この真実はスリエルの意思により語り継ぐ事は許されない。

だが、私の遠き子孫があの方の目覚めにこの書記に巡り合う為に

あの方への私の誓いを継いでくれる為に、ここに真実を記す。



ヤルダバオト・パブテスマ』