☆Shilla☆〜後編〜

「そういうわけなんですけど。」

エルフ村についたヨハネは久しぶりの帰郷でありながらマイペース全開で

長老・アステリオスの元へと向かった。

「キューブの精霊を特定か・・・・ふむ。」

考え込む長老さん。当然といえば当然だ。

「出来ませんか?」

耳を少しクタっとさせながらヨハネが言うと、それを見ずに本棚へと手を伸ばす。

「確かこの辺りに・・・おお、あったあった。」

やがて一冊の本を取り出す。

「この古文書を出すのも久々だな・・・・。あの娘が来なくなってから久しく開いてなかった。」

その言葉に首を傾げる。

「なに。20年ほど前だったか、お前のような妙な質問ばかりしてくる娘がいてな。」

そう笑いながら目当ての項目を読み、少し考えてからヨハネに噛み砕いて説明する。

「エルフの森で精霊を探し、その承諾を得たのち、共に満月の夜の星明りの滝へ向かえ。

契約の方法は精霊自身に問えばいい。急げ、今夜を逃せば先は長いぞ。」

「う?今夜?」

「今夜は満月だ。それとも一月先に延ばすか?」

その言葉を聞いたヨハネは精霊がどんなもんかもろくに聞かずに慌てて神殿を飛び出した。

「時間を急く所もよく似ている・・・。そういえばあの娘の名も『ヨハネ』であったな・・・。

今、どうしているのやら・・・。」

笑いながら呟いたその言葉はヨハネには聞こえていなかった。



「せーいれーいさーん、どーこでーすかー?」

ふらふらとエルフの森を歩く。

思えば幼い頃よくラズリと日没までこの辺りで遊び歩いたものだ。

「やーっぱ一月待つしかないかなぁ・・・もう夕暮れだし・・・。」

若干諦めモードになりつつも首を振り一人両手を握る。

「でもっ思い立ったが吉日っていうし!がんばろ!」

そう言ってふたたび「せーいれーいさーん」と間抜けな声をあげながら

森の中をふらふら歩きまわる。

レベルの違いか、木陰から怯えた顔でこちらを伺うゴブリンたちに気づきもせずに。

そうしてどれくらい時間がたっただろう。

日はもう暮れ満月の月明かりで薄く辺りが照らしだされた頃だった。



『ちょっとあんた!!』

ふいに声が聞こえる。あたりを見回せば自分しかいない。

「・・・う?」

『あんたよあんた!良い子は家に帰って寝る時間よ!』

キョロキョロと見回すがこちらを怯えた顔でのぞいているゴブリンや

我関せずに歩き回るケルティル以外に特に生き物の姿は見えず。

「あたし・・・?」

と首をかしげた時だった。

「!?」

咄嗟に盾で受ける。目では追いきれなかったが何かが飛んで来たのだけは確かだ。

実際「カンっ」と盾に何かが当たる音だけは聞こえた。

目を細め盾に弾かれて地面に落ちた何かを探し出す。

「・・・石・・・?どっかの子供の悪戯か・・・?っとぐあっ」

今度は後ろからの突風。

髪を押さえながらもキョロキョロとあたりを見回す。

「な・・・・ナニ・・・?」

『全く、こんな夜更けまで大声で叫ばれたらゴブリンたちが眠れないじゃない!』

『他の精霊たちもね。』

今度ははっきりと聞こえる、透き通るような二つの声。

『どこを見ているんだい?こっちだよ』

後から聞こえ始めた声を慌てて目で追う。

目の前には青味がかった色の光・・・違う、よく見ればその光の中にうっすらと人型の何かが見える。

『まぬけねぇ、最近のエルフ族は落ちたものだわ。』

もう一つの声。そっちを見れば星の光に似た暖かいオレンジの光。

見覚えがある。野良PTで一緒になった先輩テンプルたちが召還していたアレだ。

「ライフキューブとストームキューブ・・・・?」

『失礼な小娘ね。私たちは精霊。キューブなんていうのは私たちに貴方たちエルフが勝手につけた

呼び名じゃない。』

『まぁまぁ、時代の流れだと普通の反応じゃないのかな。昔のように俺たちを一個の存在として

見る人なんていないわけだしー。』

『本当、迷惑な話よね。狩りだかなんだか知らないけど便利やみたいに勝手に呼び出してー。』



第一印象:

精霊ってよくしゃべるんだなぁ〜元気だなぁ〜





とか思いながらヨハネはその2人の会話をきょとんと見ている。

が、本来の目的を思い出し2人に手を伸ばす。

「ねぇ、2人はエルフの森の精霊さん?名前は?」

いぶかしげな顔でヨハネを見つめるライフと、特に警戒する様子もなく出された手の上に乗るストーム。

『名前なんてないわよ。私は光の精霊。』

『俺は風の精霊。君たち一部のエルフ族はストームキュービックと呼んでいたかな。』

いまいち小さい上に光に包まれてるため、その姿を正確に見る事は出来ないが

なんとなく会話の流れから  光の精霊=女の子  風の精霊=男の子なのは分かる。

「ねぇ、さっき『勝手に呼び出して』って言ってたけど君たちだけなの?精霊さんって。」

『違うよ。俺たちは無数に存在するうちの一つ。光も風も自然界に無数に存在するだろう?』

ストームキューブの言葉にふむふむとうなずき、ヨハネはずけずけとさらに質問をする。

「召還されるって、選べるの?今日は行きたくなーいとかさ」

『出来るわけないでしょー?』

『生憎ランダムでね、その時、その時間、召還者と一番波長があったモノが呼び出される。

まぁ、タイミングって奴さ。』



第二印象:

光の精霊は感情的  風の精霊は理屈っぽい。



『例外はあるけどね。』

風の精霊の言葉にやっと警戒を解き右手に乗ったライフキューブが付け加える。

「例外?」

『特定の者との契約さ、主が決まればその主以外の召還には応じなくなる。

もっとも、今エルフと契約を交わしてる精霊なんてほんの一部だけど。』

その言葉にヨハネはキラーンと目を光らせる。が、相手は一枚上だった。

『あんたはその一部に加わろうって気でここに来たんでしょう?小娘。』

ふいにライフが目の前にふわふわと浮く。

『それはどうしてだい?こんな事をしなくてもあの呪文さえ覚えれば俺たちの誰かが

君の元に行くのに。』

そう言われて考える。

「なんていうかな・・・・そう!友達!友達になって欲しいの!せっかく狩りを助けてもらうんだもん、

毎回違ったらお礼も言わずに時間切れで戻っちゃうでしょ?」

恐らくこれが相手がラズリや、マスター。いやアデンに住む誰であったとしても

ポカーンとした顔をする所だろう。だが、今回は相手が違った。

『へー面白い事を言うね。』

『友達って何さ?友達になったら何かいい事でもあるの?』

関心するストーム。挑発するようなライフ。

「そだなー・・・狩り以外でも召還するとか!君たちエルフ村と召還者のとこ行ったりきたりなんでしょ?

綺麗な観光地とか・・・そう!ハイネスとかでも呼んであげる!」

『残念ながら以外と俺たち村には入ってるんだよね。召還したまま帰還魔法使う奴は

結構いるんだよ?』

ストームの言葉にヨハネはうめく。

「じゃ、じゃぁ名前つけてあげる!名前ないんでしょ?それってなんか寂しいよ。」

その言葉に2人(二匹?)が動いた。

『へぇ。名前ねぇ。面白いじゃないか。』

『ちょっと、煽ってどうするのよ。』

「・・・・・う?」

『君だって、最初から気になったから声をかけたんだろう?』

『・・・・わかりましたー。好きにしてよもー。どうせ退屈してたんだし。』

2人の会話が読めずに首を傾げる。

『それじゃぁお嬢さん、行こうか』
「ど・・・どこへ???」

『決まってるでしょ。星明りの滝よ。』



言われるまま星明りの滝まで2人を連れてやってきた。

長老さんはここで満月の夜に契約を交わせ、方法は精霊に聞け。そう言っていた。

「あのー・・・・・。」

『何よ、っていうかなんで敬語なの小娘』

「小娘って言うから・・・・。」

『俺たち君の名前を聞いてないよ?』

「あ、ごめんなさい。風谷ヨハネです。」

慌てて2人を乗せた両手を顔の前に頭を下げる。

『で、何?ヨハネ。』

「あ、えーとですね。ここで精霊さんにやり方聞いて契約出きればキューブが決められるって

エルフ村の長老さんに聞いてきたんですが・・・・」

『簡単な事さ、さっき君が言ったろ?俺たちに名前をくれるって。』

『とっとと決めなさい。さぁ』



『私(俺)たちの名前は?』

月の光が、滝壷に強く反射し辺りがキラキラ光って見えた。

「あ・・・・・シーラ!とソニック!最初に見た時から一番似合うと思ってた!」

そう、言った瞬間、滝つぼの奥で何かが光、星たちの光が強く映し出されたように見えた。

「え?え?」

『はい完了。これからよろしくね。ヨハネ。俺はソニック。』

『気が向いたら回復だけはしてあげるわ。私はシーラ。』

「・・・・・はぃ?え、終わり???」

『精霊とエルフの古き盟約の元、契約は交わされたよ。星と

星明りの滝が立会人だ。』

『なーんかこの小娘まぬけ極まりないんだけど。大丈夫かしらソニック?』

状況がいまいち飲み込めてなかったヨハネだが少しだけ理解できた。

「あ、よろしくね!シーラ、ソニック!」







『それじゃ私たちはここで。用がある時は呪文で呼び出して。』

『またね』

エルフ村へ戻ろうと森を抜ける寸前、肩口から2人が離れる。

「うん!すぐ呼んじゃうと思うけ・・・・・あ」

ふいに思い出しヨハネは冷や汗を浮かべる。

『どうしたの。何か言い忘れた事でもあるのかしら?』

シーラの言葉に言いずらそうに呟く。

「サモンストームキューブ・・・・魔法書持ってない・・・呪文も覚えてない・・・・」



『はいぃっ?!』









テンプルナイトにさりげなく手を貸すキューブ。

これはそんなキューブにまつわる、ある一人のテンプルナイトとのお話。