「ぁー・・・ぅー・・・。」

ここはディオンの神殿。そこから包帯を巻きまくった桃色の髪のエルフがひどい顔で出てくる。

「やっぱ向いてないのかなぁ・・・・しょぼーん。」

そうぶつくさ言いながら耳を垂れる女の名は風谷ヨハネ。つい最近エルフ村から出てきたばかりのエルヴンナイトである。

先ほど、村の付近で熊狩りをしていたところ瀕死の重傷を負い通りすがりの親切な人に神殿に運ばれ
意識を取り戻し退院(?)してきたところだ。

実はこの娘がこんな形で神殿から出てくるのは初めてではない。要領が悪いというかやる気がない
というか・・・頻繁に瀕死の重傷でその度に通行人に助けられるという日々を送っている。

通りすがる人がいるだけ、運はいいのだろうが。

「こんなんでソードシンガーとか無理だよなぁ・・・もういっそ接客とかに路線変更した方がいい気がしてきた・・・・。」

そう言いながらここしばらく拠点にしているディオンの宿屋へと入る。


「あ、おかえりなさい御姉様。」

そう風呂上りなのだろう、髪を拭きながら出迎えたのは風谷ラズリ。ヨハネの「妹」だ。

「ただいまー・・・・。」

その姉のひどい有様にラズリは苦笑を浮かべる。

「また?w」

「うんー・・・またー・・・・。」

そう答えながらヨロヨロとベッドに近づき、『自分の意思』でダイブするのかと思いきや
横に置いてある椅子につまずきガンっ!ゴン!と2回ほど大きな音を立てて顔からべしゃっとベッドにつっこんだ。

「ぴぎゃっ」

そう妙な声を上げたヨハネを見てラズリは少しポカーンと固まってから慌てて駆け寄る。

「お・・・御姉様大丈夫・・・・?」

そう声をかけるとべそべそと泣きながら返事が返ってくる。

「ぁぁぅぅぅぅ・・・・モウヤダ・・・・・。」



「あーもう、聞きますから。何があったんですか?」

先週も同じような事があったとか思いながらもラズリは泣き喚く姉の横に座る。

「いつもどおりだもん・・・熊さんと戦ってたらぎゃーって増えてぎゃーって転がって
・・・気づいたら神殿のベッドの上だったんだもん・・・。」

「えーと・・・狩場・・・変えたら?」

「やだ!グルーディン行くと買い物不便だもん!」

子供のようにイヤイヤと首を振る。本当にこの人は優先順位を間違えた生き方を自ら選んでいる気がする。

「・・・とりあえず、お風呂入ってきてください。それ縫っておいてあげるから。」

そう言いながらバスタオルをベッドに沈没したヨハネの顔の横にそっと置く。

「ぅん・・・頭冷やしてくる・・・。」

それを手に取りヨロヨロと歩き出すヨハネにラズリは冷静に告げる。

「だからって水かぶったりしないでくださいよー?」

ラズリの言葉に一瞬止まったのは、やる気満々だったと解釈していいだろう。

「・・・だいじょー・・・びゃ?!」

そのまま振り返らずに進みかけてドアの枠に頭をぶつけ、さすりながらそのまま出て行く姉。
さらに何度か奇声が聞こえたのは聞こえなかった事にしてラズリはヨハネの置いていったブリガン重のセットを手に取る。

「あのレベルでブリガン重ってかなりいい方なのに・・・どうしてあんなに瀕死になるんだろ。」

呟きながら破れたレザー部分を縫い始める。この時姉、風谷ヨハネLV21 妹、風谷ラズリLV38。

既に妹ラズリはシルバーレンジャーになる為の転職準備に入っている頃だった。
さらに付け加えるのであれば、二人が一時転職を終えたのは同日のはずだ。

わざわざ育たない姉を心配して拠点を移動せずにいるラズリだが
そろそろ本気でこの人死ぬんじゃないかと不安で仕方ない。
そもそも、あれがこれだけ装備がいいのも運だけではなくしょっちゅう瀕死で転がってるもんだから
ぶっちゃけEXPがぜんぜん上がらないだけでお金は貯まるというひどい理由のせいだ。

無鉄砲なのは昨日今日に始まった事ではないがもう少し自分を大切にしてもらいたい。

「言ってどうなるなら・・・とっくになってる・・・か。」

もう一度ため息をついてからラズリは諦めた顔をして縫い物を再開し、

「気晴らしに明日はスイーツ食べにでも付き合ってあげよっかな。」

健気である。

「はぁー・・・・。」

一晩明けても相変らずブルーモード全開のヨハネをラズリは引きづるようにギランに連れ出した。

「ほらお姉様、行きますよ?ケーキ食べたいんでしょ?」

「うんー・・・。」

「ペンギン堂のスイーツバイキングは時間限定なんですからキリキリ歩いてください。」

とりあえず食わせれば元気になるヨハネをよく知ってるラズリは自分が小食なのは置いておいてヨハネの手を引く。・・・・と。

「・・・お姉様?」

急に人ごみで立ち止まりヨハネはある方向をじっと見つめている。

「どうしたんです?」

その問いかけにも応えずただじっと。不思議に思いその方向を確認しようとしたラズリだが、人の波がその手を離した。

「わっちょっ押さないでよ・・・押すなっつってんだろボケ!お姉様?!」

慌てて姉の姿を確認しようとしたラズリが見たのは、走り出すヨハネの姿。

「どこいくんですか?!」



ヨハネは苦手な人ごみを掻き分けて見つめていた先へと必死に走る。全てはここから始まった。

「あ・・・あの!!!!!!」

声をかけた相手はヒューマンメイジの青年とエルフの男性の二人組み。

「・・・はぃ?」

「ぁ?」

不思議そうに見下ろされ、少し息を大きく吸ってからヨハネはヒューマンメイジの青年の右目を真っ直ぐに見て一言言った。



「愛してます!!!!!!!!!」



当然のごとくしばらくの間。雑踏の中だというのにその場だけ空気が固まる。
少しの静けさの後その沈黙を破ったのは沈黙を生み出した張本人。

「あ、えっと突然でごめんなさいっあとあたしテンション高くてごめんなさいっ。」

勝手に赤くなった顔を押えながらひとしきりオロオロしてからもう一度顔を上げてその言葉を口にする。

「初めまして、好きです!」

彼女が、その場所で生きる事の理由を決めた瞬間だった。たった一つの想い
それだけでどこまで行けるかをその身で証明する生き方を選んだ始まりの言葉。

「・・・えーと君は?」

やっと相手から出てきた言葉にヨハネは赤い顔のまま笑顔で答える。

「風谷ヨハネっていいます、エルヴンナイトしてます!」

「・・・初対面・・・だよね?」

「はい!」

「・・・えーと・・・」

明らかに困ってる様子の相手を見て少しだけ自分の猪突猛進に後悔しつつもさらにヨハネは続ける。

「好きですけどそれを押し付ける気はないです!片想いで十分なんです!
ただ、好きだっって思っちゃって、どうしてもそれを伝えたかっただけなんです!」

論点のずれた言い訳を並べながら真っ赤な顔を押え顔を見るのも恥ずかしいらしく
チラチラと相手の顔を見つつだんだん半泣きになりながらも自分の気持ちを伝える言葉を捜す。

「と・・・とりあえず落ち着いて?ね?」

その苦笑しながらの優しさに大きめに一呼吸してから顔を上げる。その目前にはまた苦笑。

「気持ちは嬉しいんだけど・・・僕、恋愛とかその・・・興味ないから。」

「はい!」

「・・・・はいって・・・報われないよ?いいの?」

「問題ありません!」

「・・・・・・・・・・・」

何を言っても無駄だと思われたのか、単純に呆れたのか、複雑な苦笑を浮かべたままで
言葉に詰まる相手にヨハネは思い出したように言う。

「あ・・・名前、教えてもらえませんか?」

「タクシナ・ダスクレイ・・・。」

条件反射的に告げられた相手の名前にヨハネはまた満面の笑顔を向けた。そして45°で頭を下げる。

「名前もかわいい・・・!タクシナさん、急に呼び止めちゃってすみませんでした。また・・・暇な時にでもお話してください!」

急に礼儀正しく頭を下げられタクシナと名乗った青年は

「え・・あ・・・うん・・・・。」

と一歩後ずさりながら応えた。そしてヨハネは隣に立つエルフの男性にも同じように頭を下げる。

「忙しいところ足止めしちゃってごめんなさい、時間くださってありがとう。」

そう笑いかけてからもう一度二人に頭を下げてくるっと振り返り歩いていく。

「・・・なんなんだあの女・・・・?」

「・・・さぁ・・・?」


熱い顔と納まらない動悸とこみ上げてくるにやけ顔に困りながら歩いてるとふいに腕を引っ張られる。

「お姉様!」

「うわぁ!」

さらに激しくなった動悸に口をパクパクさせながら妹の顔を見る。

「急に走り出すからどこに行くのかと・・・今の人たちはお友達です?」

少し離れたところで見守っていたのだろう、そう言われヨハネはラズの両肩をぐっとつかむ。

「な・・・何です?」

「ラズ、あたし恋をしちゃったのだよ!今のヒューマンメイジの人、もうだめ、一目ぼれ否定派だったけど世界の色が変わった!」

安い恋愛小説のようなセリフを吐くヨハネに軽蔑の目を向けたラズだがその目が「マジ」だと気づいて表情を変える。

「・・・で?」

「あたし、テンプルナイトになる!」

全力真剣で誓った風谷ヨハネ、LV21、16歳の初夏。

「タクシナ・・・ダスクレイ・・・・。」

彼の名前を口にする。それすら幸せで。

「決めた、どんなに時間かかっても、あたし絶対いつかあの人の盾になる!!!!!」

始まりは幼いけれど真っ直ぐな一つの想い。




それから色々な事があり、そして数年後。



「ヨハネどこいくの?!」

「・・・ぇ?奥の丘の上行くんじゃないの?」

ここは太古の島。あちこちに警戒するようにこちらを見る恐竜に囲まれた中その人言葉に立ち止まり少し考える。

「あれ?坂通り過ぎちゃった?」

「まだたどり着いてもいません。」

きょとんとしてから顔を赤くする。

「・・・もう大分覚えたと思ったんだけどなー・・・。」

愛用のフォーゴットンブレードを握ったまま共に進む仲間にエヘヘと笑う。

「タンカーで方向音痴って致命的だよな。本当。」

「いつもみたく『愛の力ー!』でなんとかならんの?」

「なんとかなるならとっくになってる!えっへん。」

「いばるな!」

総ツッコミをくらいつつクルッと振り返り一番後ろを歩いていたカーディナルに近づく赤い恐竜に剣を向ける。

「ヘイト!」

攻撃を受けながら数年前を思い出す。あの日の告白から約4年。色々な事があった。本当に色々な事が。

酔っ払って押しかけてダラダラ本人に愛を語ったり、告白した回数数知れず。

今も褪せる事のない恋心、むしろあの頃より強くなった。

あの日の誓いを目指して生きてきて、大好きな仲間たちが増えた。今こうして彼や仲間たちと共に歩いている。

失った仲間も取り戻せない命も、後悔し続ける絶望もあった。それでも生きる理由も大切な人たちも増えた。

「方向音痴になんか負けない!いつか絶対タクシナさんの盾になる!!!!」

このセリフも何度目か分からない。

「・・・もうなってる。」

ボソッと背後に立っていた本人に言われた言葉が単純に高レベル盾としての意味だと分かった上で言う。

「まだ、足りません!」

そう剣を振るいながら笑う。


風谷ヨハネ。LV78エヴァステンプラー。あの頃以上の愛を持って、今日もこの世界で愛の為に生きてます。















2009年のリネージュ2、ファンフィクションコンテストへの投稿作品になります。
特に加筆等はしておりませんのでご了承ください。



FFCのコメントでも書きましたし、タイトルもまんまですけど
「風谷ヨハネ」はとりあえず何か困ったら愛の力でなんとかしようとする生き物です。
恋の力は偉大です。

「っていうか・・・総数数多のリネージュ2プレイヤーの中で
一人くらいこんなアホがいてもいいじゃない!」


そんなコトを思いつつ、こんな生き方貫いてます。


Half nonfiction
〜これが、生きる理由〜