この物語はボク、ヨハネ・スリエルが実際にリネの中で出会った愛しい友人にまつわる物語です。







Som de lua



いつもと変わらないある夕暮れだった。
ボクはいつもと同じようにドラゴンバレーからギランへと戻る為
死の回廊を一人歌いつつ歩いていた。
当時INESSにはまだボクとお兄ちゃん(眠る猫)、キリードとラズリとくおんしかいなかった。
血盟レベルはまだ1 ボク自身まだスペルシンガーになったばかりの頃で
カルミアンローブに相変わらず相方のエルバソを握り締めていた。
 日々が楽しくてボクがまだいつも笑っていられた頃だった。
回廊ではまだ狩りを続ける人々がいてあちこちからバジリスクやウォームと戦う音が聞こえていた。
その中をいつも通り歩きギランとの三又に差し掛かった時。
道から見える場所で魔法を詠唱しているダークウィザードに目が止まった。
「あれは・・・・・」
こちらの視線に気づかず詠唱を続けるダークエルフ。
その名前を思い出すのにたいして時間はかからなかった。
「ティアジンハ・・・」

「お兄ちゃんいる?!」
宿屋に戻るなり荷物だけおいて隣の部屋の戸を叩く。
「あ、おかえりなさい〜」
そう言いながら風呂あがりだったのだろう、髪を拭きながら出てくる青年に
ただいまを言うと入るように促される。
中には同じく遊びにきていたのだろう、ベッドの上で本を読んでいた手を止めるラズリの姿があった。
「どうかしたの〜?」
そう閉じた本を横に置きながら言うエルブンナイトの少女の前にブーツを脱いで座り込む。
(ここは彼の部屋です。)
「あのねっ相談があるのっ!」
「どうかしたんですか?」
そう扉を閉めてから椅子を引いてくるお兄ちゃんにも笑顔を向ける。
(ここは彼の部屋です。)
「一人ね、血盟に入れたい人がいるんだ!」
「おおー」
「わー」
いまいちやる気がない返事はいつもの事。とりあえず拒否されなかった事には安心する。
特にお兄ちゃんは人数が増えるのを嫌がる傾向があったからそれが少し心配だった。
「どんな人?職は?」
そうたずねるラズリに微笑んでからお兄ちゃんに言う。
「お兄ちゃんも知ってる人だよ。覚えてるかは分からないけど・・・。」
「え、誰ですか?」
首を傾げるお兄ちゃんに短く告げる。
「ボクの一次転職覚えてる?あの時さ、急に飛び出してきたダークエルフの女の子。」
「あ」
すぐに気づいたような声をあげる。
「あのアデン語おかしかった人?」
「そう!さっき帰りに見かけたの!血盟入ってるか分からないけど無所属だったら入れたい!」
その言葉に先に言葉を挟んだのはラズリだった。
「もしかして猫が唯一嫌いじゃないって言ってた外人さん?」
「そうそう。あの人は嫌いじゃない。」
どうやらラズリも話だけは聞いたことがあるらしく
「いいじゃん♪」
と興味津々である。
「声かけたの?」
そのお兄ちゃんの言葉に遠くを見る。
「いやぁ・・・あの辺で狩りしてるならまた会えると思って・・・w」
「やっぱり?w」
覚えられてなかったらどうしようとナカナカ人に声をかけられないボクの性格をよく知る二人が笑う。
「私も見かけたらそれとなーく声かけてみるよーどんなカンジ〜?装備は〜?」
ボクの一次転職の時、なぜか団体さんで助けられていた時に突然現れて「PT、OK?」そう小首を傾げながら
話しかけてきた少女。(月と共にありし剣参照)
その夜はあの時の話で盛り上がった。ボク自身あれ以来一度も会う事のなかった彼女。
言葉の壁がこの世界でも大きくある事を知ってるからこそ自分の傍においておけば
何かしら助けられると思った。
言葉の壁の越え方を知ってるボクとそのボクを理解してくれてるこの連中なら。
そしてボクのあの時のお礼が出来ると。