それから数日後、前日の狩りの最中の怪我の為出かけられず宿の部屋で本を読んでいた夕暮れ近く。
突然ラズリが飛び込んできた。
「ヨハネさんヨハネさん見つけたよっ!」
「みゅ?どった?」
もうほとんど痛みの消えた体を起こすとラズリは親指を立ててみせる。
「ティアさん見つけた☆話も少ししたよー」
「なんですと?!」
「クルマで見かけてね、ヨハネさんの事覚えてるっぽ・・・・・」
「よし出かけるよ!」
途中まで聞いて立ち上がる。
「え、ヨハネさん怪我は?」
「もう平気、今さっきの話でしょ?」
「え、うん。多分まだディオンにいると・・・・」
「行こう!」
立ち上がった時にまだ少し足が痛んだが、それよりも話がしたかった。
彼女と。

ディオンまで猛ダッシュできて村の中央で辺りを見回す。
クルマの塔はまだ当時冒険者たちの絶好の狩場でそのせいかディオンも人でごった返していた。
「いるかなぁ・・・私あっち探してくるね〜」
「うん、ボクはこっち探してみる!」
ラズリと別れてすぐだった。
何かの図をジーっと見つめて首を傾げる彼女の姿をすぐ見つけた。
「TIAZINHA!」
息を整え、緊張しながらそう名前を呼ぶとすぐに彼女は振り返りてくてくとやってくる。
「こ・・・こんにちわ!」
そう言うボクにあの頃と変わらない笑顔で
「コンニチワ」
そう返してくる。
「えと・・・オボエテル?ワタシ、アナタ タスケテクレタ」
出来るだけわかりやすいように単語を切りながら言うとうなずきながら笑う。
「ヨハネ」
その言葉に言葉にできないくらいうれしさがこみ上げてくる。
「アノトキ アリガトウ」
「イエイエ」
他愛のない会話。でもボクがまだアデン大陸に着たばかりの頃一度あっただけなのに
憶えていてくれたことがすごく嬉しくて笑顔が止まらなかった。
あれからどうだとか、今は血盟に入ってるのとかそんな話をしているとちらっと彼女は時計を見て言葉をきった。
「ゴメナサイ、ワタシ ゴハン ジカン」
「あ・・・ゴメンナサイ、キョウ アエテ ヨカタ」
「ワタシモ」
その笑顔を見送ってやがて、近くで見ていたのだろうラズリがやってきた。
「話せてよかったねー」
「うん、ありがと〜」
「血盟は入ってるみたいだけどバッチ付けてたし結構大手かなぁ・・・でも仕方ないか」
そう少し残念そうに言うラズリに微笑む。
「フレ登録はしたし、血盟だけが全てじゃないもの♪」
「そだね☆」

が、しかし 思ったより早く事は早く展開することになる。

「ヨハネさんヨハネさんいる〜〜?」
風呂にいこうとしていると再びラズリが部屋に襲撃をかけてきた。
「ん?どした?」
「ティアさんの話聞いた?」
「え、何」
首を傾げる。最近ちょこちょこディオンで彼女と会ってはいたが特に何も言ってなかったと思いたずねる。
「血盟抜けてた。」
「マジ?」
「今日クルマで見たらバッチつけてなかった!」
「( ̄+ー ̄)」
「ふふふチャンスだw」
二人で顔見合わせてよしっと笑う。
「ボク明日朝1でディオンいってくる!」
「うんうん!」
「あー早く血盟レベルも上げなきゃだよね〜〜こうなってくると♪」
「Spあとどのくらい?」
あの頃ボクたちは血盟レベルを上げるため、各自でちまちまアデナを血盟倉庫に入れつつ
ボクのSPを待っている状態だった。
SP消費の激しいWIZでありながらも無茶の多いボクはレベルの下がるコトなんていつもの事で
逆に「SPたまるからよし」と前向きに考えていた。
ただ、どういうわけか万年貧乏だったもので(食いすぎとの噂)そこが一番の問題で
最終的には「レベル3まで一気に上げよう」それで意見がまとまりその為に日々死に掛けながら
狩りをしてえSPを貯めていた。
「あと半月もあれば貯まると思うけど・・・。アデナが・・・・あは。」
「協力するよ・・・がんばろ・・・・あは」
今なら分かる。確かにあの頃のボクたちは支えあっていた。
手にした二刀しかもうないと思っていたボクに、
最後に残された「護るべきモノ」それがINESSだった。
泣きたい時はお兄ちゃんが抱きしめてくれた。
元気になりたい時はラズリが肩を叩いて笑ってくれた。
迷いを抱えてる時はくおんくんが黙って聞いてくれた。
自分を振り返りたい時はキリちゃんが傍にいさせてくれた。
そうやってボク達は・・いや、ボクはINESSに護られていた。