血・束縛・反逆・・・解放〜sacredモノローグ〜第二話
そんなある日。いつもどおり飲み屋の帰りに通りがかると
荷物が置きっぱなしになっているのに本人の姿が見当たらなかった。
不思議に思いつつ大穴階段を下りて行くと女の持っていたエルバソが見えた。
「相方とかいいつつ剣置きっぱなしでドコに行ったのよ・・・。」
そう言いながら橋の下を覗くとばったりと倒れている女の姿が見えた。
「?!ちょっと?!大丈夫?!!」
慌てて飛び降り駆け寄る。外傷は全くないが私の言葉に全く反応はなく、
強く揺さぶると女はやっと力のない声で一言言った。
「・・・お腹すいた・・・・」
「は?」

結局話はこうだ。前日の夜、ここで魔力回復中に寝てしまい、
気づいたら朝で村に戻るのがめんどくさくてそのままフレイムストライクを
打ち続け、腹が減って倒れたと。
なんつー女だとほとほと呆れつつ、女を肩に担ぎあげ左手で荷物を持ってやり
飲み屋へと引き返す。
「くきゅ〜」
そんな状況でもエルバソはしっかり持ったままでなにやら呟く。
「ん?どうしたのよ。もう少しでつくわよ。」
「お姉さん力もちだねぇ〜^−^」
呆れて返答する気もなく飲み屋のドアを蹴る。
「マスター!ちょと何か食べ物出してやって。」
ぽかーんとしたマスターにそうつげ、荷物を床に落とし椅子を蹴って引き
女を座らせる。
「大丈夫なのかその子・・・・」
「腹減ってるだけみたい。まだ私の前金あるでしょ、
そっから出して何か食わせてやって。」
「・・・・んぶ・・・・」
「は?何?何か食べたいものあるの?」
「すこんぶぅ・・・・・食べたいぃ・・・・」
沈黙が走る。
「んなもん飲み屋にあるか!!!!」

結局肉やら魚やら、体に似合わない量の食事を平らげ女はいつもの
様子に戻った。
「ごちそうさまぁ〜生き返ったぁ〜」
「そりゃよかったわね。マスター、モロトフウォッカ追加〜」
そういいながら空のグラスを見せる。
「そのお酒すごい匂いするねぇ」
「飲む??普通の店だとこういうアルコール高いのおいてなくてね。
マスターに言っておいてもらってるのよ。」
そういいながらグラスをあおる。
考えてみればあの大穴から出て話をするのは初めてだった。
いや、そもそもこの店でテーブルに座るのも、人と飲食店に入るのも随分
久しぶりな気がする。
「それにしても珍しいな、ヨハネが人連れてくるなんて。」
「え?」
私が返答する前に女が首をかしげて答えた。
「ああ、私いつも一人で着てるから。」
「え?え?」
女は目をパチパチしてから私の顔をじっと見る。
「なに?」
「お姉さんヨハネさんって言うの?」
それがどうかした?というよう言うに返す。
「そうよ。」
「ボクもヨハネだよ?」
「は?」
今度はこっちが目をパチクリさせる番だ。だがすぐに思いなおす。
ただの偶然だと。だがエルフのヨハネは違っていた。
「すごいね!偶然だね!キセキだね!運命だね!?」
目をキラキラさせて身を乗り出す。
「そういえばお互い名前知らなかったわね。あんたフルネームは?」
「ヨハネ・エルデ・スリエル〜お姉さんは?」
「私はヨハ・・・ヨハネスよ。」
そう言って言葉を切る。思わず「ヨハネス・パブテスマ」と
応えそうになってしまった。
もう10年以上口にしていない自分の本当の名前を。
グラスを持ってきたマスターが少し手を止め話に入ってきた。
「ヨハネ・スリエルってINESSの盟主かい?」
「マスターこの子知ってるの?」
「あぁ、一部じゃ有名だよ。行き倒れ盟主とか三ヶ国語しゃべるとか
エルバソのエルブンWIZってのも聞いていたな。よく魔法間違えるとか。」
そういわれて女は頭をかく。
「あははは〜行き倒れたの知ってるならLEXUSの人かなぁ〜」
そんな風にのんきに残っていたパンをかじる。
「へぇ・・・そう・・・・って盟主?!!!!!!!あんたが?!!!」
思わず大声を出す。
「うん〜一応ねぇ〜」
このノロマでぼけーっとしたアデン語でたらめな女が盟主。
さすがに混乱期と言われてることはあるなと思いながら酒を口に運ぶ。
「ヨハネ、少し飲みすぎだぞ。また乱闘はごめんだからな。」
そう言って離れるマスターにやる気なく手を振りため息をつく。
「ため息つくと幸せにげるよぉ?」
「どこのばあさんよあんたは・・・。」
ますますワケがわからない同じ名前の女。ヨハネ・エルデ・スリエルとか
立派な名前を・・・・エルデ・・・・スリエル?
「ちょっと待って、あんたエルデ・スリエルって言ったわよね、さっき?」
「にゅ?そだよー?」
昔の記憶と合致する名前。忘れもしない話せる島のアイボハンド魔法学校の
禁断書物をこっそり夜中に忍び込んで読んだあの失われた神話。
なぜ、その中の忘れ去られた神の名前を?
「・・・まさか・・・・」
そう見つめるとのんきに眠たそうに目をこすっている女を見て
即刻思いなおす。
「偶然ね。絶対。」
「うきゅう?」
ウトウトしながらぼけた顔を向けられため息をつく。
「あんた宿はどこにとってるの?」
「ディオンのねぇ〜んーとねぇ〜クレアおばちゃんのねぇ〜」
「ああ、私と同じだから送っていくわ。オルカ亭でしょ・・・って・・・。」
すでに返答はなく、座ったまま眠りこけている。
「面白い子を拾ったじゃないかヨハネ、いっそ娘にでもしてやりなよ。」
「はぁ?そこまで私年じゃないし大体この子だって親が。」
「いないんだよ。この子は。この子のもう一つの噂教えてやろうか。」
マスターの言葉に顔を上げる。
「この子はエルフ村ではなく話せる島育ちなんだよ。」