血・束縛・反逆・・・解放〜sacredモノローグ〜第5話
「お姉さん傷のふさがるの早いねぇ〜さすが半分オークさんだぁ」
そう、宿屋につれてきた私に言いながら紅茶を入れる。
あの後、彼女は奴らの回復をすませると一言、
「女の子に手上げる男って最低だよ?だったら守る方がかっこいい.
傷つけるより・・・護る方が難しいから。」
そうまた意味不明な事を言い残し、私をつれてディオンの宿屋まで戻ったの
だった。


「あんた・・・最初から知ってたのね。私が神聖生物だって・・。」
「え?あ、う・・・・。」
「さっきのあれだけの話知っていて、名前同じ私を思いつかないほど
馬鹿ではなさそうだしね。」
そう言いながら入れられた紅茶を口に運ぶ。少しまだ腕が痛む。
「にゅー・・・知られたくないからいわないんだと思ったし・・・
別にだからどうしたってカンジだし・・・。」
そう言いながらちびちびと紅茶を飲む。
「・・・私さ、小さい頃からビショップになるって決定されて育てられた
のよ。」
そうためらいがちに話始めると女は手を止め、真面目に聞き始める。
「それがすっごい嫌で・・・しかも私見たとおり、実際オークっぽい性格
だし?回復魔法ちまちまってのより、前で戦う方が好きだったのよ。」
「それが見た目がお母さん似だからビショップ?」
「私の母も知ってるのね・・・。まあ神聖生物の血が濃いのも確かなのよ。
子供の頃、まぐれでディスラプトアンデッドかましちゃったせいもあるんだろうけど。」
少し自嘲ぎみに話す。何かを考える用に聞く「ヨハネ」に無駄に笑いつつ続ける。
ケガで弱気なせいなのか、それともさっきこいつが見せた顔に気が緩んだのか。
こんな年になって・・・・心に抱え込んでたものを吐き出していた。

「父様はまだ理解してくれて・・・鍛錬つき合わせてくれたりしてたんだけどね・・・
10歳の時に攻城戦手伝いに行って死んじゃってさ。
そこからはもうビショの勉強しかさせてもらえなかった。」
自分の口からこんな話をするのは初めてだった。自分自身でらしくないとは思った。
ただ、こぼれ始めた弱さは、自分ではもう止める事ができなくて。

「・・・別にいいんじゃないかな。」
そう『ヨハネ』が口を開く。
「え?」
「別にさ、ビショにならなくてもいいじゃん?やりたくないんでしょ?」
「そんな簡単に・・・・。」
「お姉さんの年になるまで転職しないほどそんなに嫌なら・・・それだけ
迷って考えてもやりたくないならいいんじゃない?」
そう言って笑う。
「血とか、家とかぶっちゃけ知ったこっちゃないじゃん?
それに・・・・。」
そこで言葉を区切り、紅茶を飲む。
「もう十分迷ったんだから、誰もお姉さんを責める権利なんてないよ。」
「・・・力の持ち腐れとか言わないの?あんたは」
予想外の真っ直ぐな反応が、言葉が、心の深い場所に届くのを感じた。
「言わないよ〜。貴方の未来は貴方が選ぶものだもの。無数の未来から・・・
未来はすでに用意されている。そこからどれを選ぶかは自由・・・って
本の受け売りだけどさ、ボクはそう思ってる。」
「・・・そう」
「その本の続きの言葉は『そしてそのどれを選んでも正解なんだ』」
「・・・・・」
「・・・・・」
2人無言で紅茶を飲む。空になったカップを置き、先に沈黙をやぶった
のは私だ。
「あのさ、さっきの連中はあんたのクラン員?」
「あ、うん。お姉さん出て行ってすぐに帰還スクロールでディオン飛んで
宿屋にいたクラン員連れてきたの。ついでに着替えてきて遅くなっちゃったけど・・・。
ごめんね?ケガまだ痛むでしょ・・・うちヒーラーいないから・・・。」
「そっか・・・。」
このときはまだ転職は迷っていた。ただ、自分のしたい事はぼんやりとでも
見え始めていた。後でこの女の言っている本も探してみよう。
「・・・ふぅ。」
そうため息をつき、クスクスと笑い始めると『ヨハネ』は首を傾げる。
「にゅ?どしたの?」
私は顔をあげ、まっすぐに彼女を見据える。
きっとこの女なら、きっと。
「INESS盟主、ヨハネ・エルデ・スリエル。」
「え、あ、はい!」
そう名前をよぶと慌てて姿勢を正す。それに笑いそうになりながら
言葉を続ける。
「ヨハネス・ルーン・パブテスマ、血盟加入希望するわ。」
「はい!・・・て、え?え??」
神聖生物としてじゃない。私が私としてやりたい事。
「月になる・・あんたそう言ったわよね?闇を照らす月になると。」
そう、大穴でのやり取りを思い出しながら言い放つ
「手伝ってあげるわ。あんたのその未来。」








「まぁそんなカンジで今に至るわけ。」
そう話を区切ると横に座るクラン員のクロフォードに水筒を渡す。
「ほっほー・・・・それでなぜエンチャ屋さんになった?」
「プロフィットよ。あーやっぱりビショップやりたくなかったし。
それに・・・クロちゃんは知らないんだっけ?」
魔力の回復を待ちながら座って空をぼんやり見る。あの頃より
色が鮮やかに見えるのはキノセイではないだろう。
「ヨハネの・・・あっちのね、二刀の持ち主の話聞いちゃったから
っていうのもあるかな。月になるって言いながらヨハネ自身まだ闇の中
にいるようなもんだし。」
「ああ・・・。」
口を思わず止めてしまう。ヨハネの目の前で二刀を託し亡くなったという
『相方』の話は。
「あ、そういえばラズリって誰?」
気をつかい、話をそらしてくれたのだろう言葉に答える。
「あの頃いたクラン員よ。ラズリとえありすって双子のがいたの。
ヨハネと結構仲よかったみたいね。もう脱退したけど。」
「らしい?」
「あたしがクラン員と行動するようになったのはまだ最近の話よ。
団体行動キライだし。転職クエの手伝いとかでしかクラン員とは
関わり持ってなかったから。」
そう言いながら立ち上がりスカートの埃を払う。
「へー。でも最近よく山から下りてきてるじゃん?どうしてさ?」
「さぁ、どうしてでしょうね。」
笑い、補助魔法の詠唱を開始する。





『未来は用意されている。そのどれを選ぶかは自由なんだ』
そして私の選んだ未来は決して間違いではない。
・・・・そう、迷った事さえ、間違いじゃなかった。
今ならそう、心から思えるから。

簡単なコトだったのに、私は迷ったから、だからこそ今
        ここに居場所がある。