10、約束と想い出



そう怒鳴った瞬間、オルはものすごい力でヨハネの腕を引き、ダッシュで走り始める。
予想外の馬鹿力にヨハネはよろけ、簡単に構えを解かれそのまま引きずられる。
「オルちゃん?!」
「少しでも距離をとって帰還するから!」
そう言いながらモンスターのいない方向を探しながら猛ダッシュでオルはヨハネを引きづり、
最終的には腰を掴んで頭の上に掲げて走った。
「ちょ・・・降ろして!ヨハネスさんを見殺しにする気?!」
「おばちゃんはそう簡単に死ぬような人じゃないもん!血の力は使えなくてもアンデット耐性は
元々の体にあるものだから!」
真っ直ぐ前を見て走りながら叫ぶ。
「オルちゃん!あたしは、誇り高きテンプルナイトの名にかけて・・・他人を見殺しにして逃げるわけには
行かない!」
そう言って必死にオルの手を解こうとしたが、急にオルは立ち止まり落とす様にヨハネを降ろした。
そしてヨハネのスカートの裾をしっかりと掴む。
「オルちゃん?」
「そんな理由で戻ってもおばちゃんは喜ばないよ・・・怒るよ絶対・・・。」
「怒るとかそんな事言ってる場合じゃ・・・・。」
震えるオルの手に気づきヨハネは言葉を詰まらせた。
この子だって好きで逃げているわけじゃないんだと。
・・・でもそれでもヨハネは逃げるという選択肢を選びたくはなかった。
自分自身のナイトとしてのプライド故に。
勝てないと分かっていても、死ぬだろうと思っていても。
そう、昔の彼女と同じように。
この瞬間までは。

「違う!!!!!」
オルが叫んだ。
そして涙を溜めた目でヨハネの目をしっかりと見上げる。
「オルちゃんたちずっと待ってたんだよ?!おばちゃんなんか、魔族と契約までして
ずっと、待ってたんだよ?!なんでわかんないの?!」
「え・・・なんの・・・事・・・?」
ヨハネからしてみればこの緊急事態に突拍子もない事を言われているとしか思えなかった。
でも、オルのこの剣幕。何か重要な何かをこの二人は知っていて、持っている。
そしてそれに自分が関係している?それだけは分かった。
が、次の瞬間、その全てが頭に流れ込んできた。
「思い出して!全部、お願い・・・・おねーちゃん・・・。おばちゃんの事だけでも・・・
自分の事だけでもいいから、思い出して・・!」
20年前、違う名を持っていた自分を。
「思い出す・・?」

「同盟MoonPiece、血盟INESS盟主、ヨハネ・スリエル!!!!」




『この剣が君を守るよ』
              『これからもよろしくお願いしますね』
 『ボス タスケテ』
                 『何を言っているんだ!』
『ううん、私がわがまま言ったから・・・』             
                         『姫〜』
『いいですよ、このままで』
           『このボケ盟主が・・・・・』                   
『ヨハネ様、愛してます!』
                   『ちゃんと説明してよ盟主』
『もーおねーちゃんってば・・・』 
                   『目覚めなさい・・・・。我の揺り篭よ』


      
 

   『ヨハネちゃん・・・もう行くの?』
   『うん・・・戻らなきゃ・・・遅いかも知れないけど
   ボクはセイクレッドを傷つけた。・・・きっと待ってる』
   『そっか・・・。』
   『ごめんね・・・ラザ君。』
   『ううん。そういうとこもヨハネちゃんらしいから。』
   『ずっと・・・守ってくれてありがとう』
   『僕はもういなくても大丈夫・・・って事かな。』
   『ううん、今度はボクが守るから・・・必ずまた逢おう。
   ボク、絶対見つけ出すから。一緒に行こう?』
   『・・・・・うん。僕も探し出すよ。』
   『約束。』
   『約束。』
   『じゃぁ・・・またね?』
   『うん、またね。ヨハネちゃん・・・・』