クリスと別れ、セイクレッドは町を出た。
そのままGKを渡り次ぎエルフ村へと出る。
待ち合わせの南門へと向かい歩きながらふと思う。
奴が消えて20年。今現在、当事のメンバーで名前が残っているのは自分だけ。
なのに自分は何をしているのだろうと。
「あ、おはようございます!」
「おはよう。遅れたかしら。」
髪を真ん中で分けたNグレード装備のエルフに軽く手をふる。
【月の子守唄】。奴が消えたのち導入された「アカデミー」システムで
セイクレッドが作ったアカデミー。
深く考えずに作った。というよりただの気まぐれのようなモノだ。
が、現状で一人在籍者がいるのもまた事実。
「マイシー、アキュ、デスガイ、バサ、WW・・・・こんなとこかしら。」
「ありがとございます!」
元気いっぱいで笑うその少女の援護につくのはまだ数回目なわけだけれど
毎回、同じ質問を繰り返してしまう。
「・・・あのさ、うちの血盟、盟主行方不明だし在籍いないし、クラハンとかしようがないし。
いつ抜けてもかまわないのよ?抜けても援護はくるから。」
実際、今後の誓い装備の確保などでアカデミー所属の方が色々便利だと
その程度の考えで一時的にと【月の子守唄】へ入れただけであって
どんどん友人の増えていく彼女を見ていれば、他アクティブ血盟へ所属した方が
よほど効率的だと感じていた。  が。
「んー脱退はないですよー。ただ、家の都合でレベル上がるのは止まっちゃうかもですけど。
セイクレッドさんがよければこのまま置いてください♪」
そう無邪気に笑われてしまえば、それ以上は何も言う事は出来ない。
分かった上での在籍希望は少なからずセイクレッドからしてみても
嬉しい事ではあったから。
奴がまだいた時代、新人育成はセイクレッドの担当だった。
元々援護職の少ないINESSではBUFF援護が出来る人は少なく
その時間を割くような自分のレベルに完全無頓着なのもセイクレッドのみで。
まぁ援護という点では全く役に立たない奴はついてはきていたが。
「セイクレッドさんこそ迷惑じゃないですか?」
「は?」
「こんな風にBUFF援護とかしてもらっちゃって・・・」
そう言って少し手を止める彼女。その様子に問題ないと手をふる。
「私もうレベル上げる事もあまり考えていないしね。基本的に暇だし。
私塾に連絡くれればいつでも呼び出してくれてかまわないわよ。」
「はい!」
たまたま、散歩がてら来たエルフ村で、たまたま知り合った少女。
必死に狩りを続ける彼女の後ろ姿を見ながら穏やかに時を過ごす自分に
年を感じられずにはいられなかった。

「セイクレッドさん、今日は私塾戻らなくて大丈夫なんですか?」
夕方になり、狩りを中断して夕食を一緒にしているとふと少女が尋ねる。
「年のせいか少し疲れたしエルフ村泊まってくわ。今の時代、一日くらい自分たちで家事くらい
男もできなきゃだめだし。」
のん気に酒を飲みながら言う。
その頃のハーディンの私塾はといえば、誰が食事を作るかでちょっとした会議になっていた。
「それじゃぁ私はそろそろ寝ますね。おやすみなさい。」
「おやすみ。」
先に席を立った少女を見送り、まだ飲み足りないと追加の酒を注文する。
エルフ村の酒はアルコール度数が軽いものしかなく
若干物足りなさはあるものの、果実酒の類の種類とその味は
セイクレッドから見ても満足のいくものだった。
「エルフ村・・・か。」
そういえば、奴の相方が亡くなった場所だと思い出しため息をつく。
奴が消えた時、ドムローブを始め装備類はその場に残されていた。
だが彼女が何より大切にしていた相方の遺品であるエルバソだけはそこにはなく
探し回ったものの結局見つけだす事は出来なかった。
思えばあのエルバソを人に持たせたところを見た事がない。
例え瀕死状態で病院に行く道中であってもあれだけは人に持たせる事はなかった。
連れて・・・行ったのだろうとそう思うようにしていた。
彼女に最後まで教えてはやらなかったが彼の魂は確かにそこにあった。
それにセイクレッドが気づいたのは割と早く、INESS加入とほぼ同時期だった。
たまたま怪我をして自分の血のついた手で立てかけてあったエルバソにぶつかった時、
セイクレッドの「神聖生物」としての力が発動して、その魂の存在に気づき。
奴が眠っている間に少しだけ「彼」と話をした事もあった。
ただ、その時には『自分の存在を、彼女には知らせないで欲しい。ただ僕は守りたいだけだから』
そう言われ。結局奴が消える・・・いや、奴を消したその瞬間までその事は話はしなかった。
今思えば、もしあの時、いやもっと前にその事を教えていたら、少しでも奴の心を救う事が出来たのかもしれない。
「他力本願ね・・・全く。」
苦笑をもらしつぶやく。
自分が救えなかったから、相方くんが救ってくれたかも知れないなんて
そんな事今更考えても無意味で。
自分が救えなかった、そして自分の手で彼女を消した。その罪は決して許されるものではなく
例えアインハザードやシーレンが許したとしても、自分自身が決して許しはしない。
「・・・美味しかったわマスター。お勘定お願い。」
「はい。」
料金を払い立ち上がり、夜の村を歩く。
INESSの証である、ピアスを揺らして。

























☆あとがき☆
こんにちは、中の具です。今回ちらっと出てきたアカデミー生ですが
名前はあえて出さずに置こうかともおもったのですが、本人からの許可があることと
彼女の存在を残す一つの手段として、私が出来る少ない事としてあとがきにのみ
名前を書かせていただきます。
INESS血盟アカデミー『月の子守唄』実在するこのアカデミーで実際にアカデミー生だった
リネコミュでお友達になった「・xフェイx・」ちゃんをモデルに書かせてもらっています。
彼女が生前の時点でこのシリーズにこの話を入れる事は決めていた為
本人に許可ももらっていたのですが、かなり書くのが遅くなり、本当にごめんなさい。