翌朝、目を覚ますと部屋のドアの下の隙間に紙が入っていた。
それを開くとアカデミー生の彼女からのメッセージで
急に実家に戻る事になりしばらくの間狩りが出来ないという事と
戻れ次第私塾へ連絡をくれる事。
そしてお礼と謝罪の一言が書かれていた。
それを見て「若いってすばらしいわね・・・本当」とつぶやき
私塾へと戻ろうと宿を出る。
来た時と同じようにGKを乗り継ぎ、ギランへ。
夕食の買い物をしてから戻ろうと思ったところによく知った声が聞こえた。
「おばちゃーーーん、セイクレッドおばちゃーーん」
振り返ると少し前までINESSに残っていた・・・というか最近追い出したバウンティハンター、
オノエル・J・オルディウス・オルフェウスの姿が。
「わーい、おばちゃんどこいくのー?」
飛びついてきた姿をいつもどおり頭を撫でる。
「買い物して帰るだけよ?」
「これからみんなでクラハン行くのーーー。めーしゅ!おばちゃん連れてっちゃダーメ(・_・?)」
よく見れば少し離れたところに同じエンブレムと思われるヒヨコのストラップをぶら下げた集団。
「・・・・ヒヨコ?っていうかこれ、お風呂に浮いてるやつよね?」
オルのカバンにもついてるのを発見し、引きつりながら手に取る。
「かわいーでしょー(・_・?)」
「・・・まさかあんたこのヒヨコ目当てで血盟決めたとかアホな事言わないでしょうね・・・。」
にこにこと言うオルに言うとオルは笑って首をふる。
「まっさかぁ〜ヨハネおねーちゃんじゃあるまいしー。このヒヨコさんは前のめーしゅさんの趣味だよ!多分!」
どんな盟主だとつっこみそうになりながらも「そう」と一言返す。
「誘いは嬉しいけど今日は狩りはパスするわ。昨日私塾帰らなかったから洗濯物溜まってるだろうし。」
「ほへー・・・あ!もしかして『あいびき』(・_・?)」
「・・・は?」
「ぇーと・・・不倫(・_・?)」
自称8歳のオルから予想外の言葉が連発され、セイクレッドは固まる。
「・・・オル、そんな言葉誰に習った。」
「めーしゅとか天おじちゃんー。」
にこにこ答えるオルの頭に手を載せる。
「つまり、今の血盟の人たちに教わったのね?」
「うん!」
「そう〜。そういえば一応私あんたの保護者代理だし?挨拶くらいしないといけないわねぇ。
そのめーしゅってのと天おじさんってのはドレよ。」
「こっちこっちー」
セイクレッドも笑顔で話している為、無邪気にオルはその手を引き血盟の人間が集まっている所へと
連れて行く。
「めーしゅー。あのね、INESSのセイクレッドおばちゃんだよー。おばちゃん、あのね、この人がめーしゅで
この人が元盟主の天おじちゃんー。」
にこにこと言うオルを差し置き、セイクレッドは一歩前に出て笑顔を振りまく。
「オルがお世話になってます、INESS盟主代理、セイクレッドです。
・・ところで、盟主さん、そしてえーと天さん?」
「お、こちらこそ。」
「どもども。」
他にも血盟員はいるわけだが二人だけに話をフリ、答えたところで

ガシ   グイ

セイクレッドは二人の首元を掴み自分の顔の方へと寄せる。
「・・・・細かくは言わないわ・・・。あんまりオル汚すとシバクわよ・・・。」
殺気出しまくりで眉を寄せて睨み付けながら言い放ち、その手を離す。
が。
「おばちゃん、無駄だよー今の二人に何言ってもー。」
「え。」
後ろで聞いていたオルがセイクレッドの服を引っ張りながら言う。そして
「だって、二人とも今ものすごくよっぱーだから〜。」
と指を指しながら言う。
その方向を見れば
「きゃは☆」
「いやーんこわーい。」
とほざく男HF(めーしゅ)と男DE(元盟主)の姿。
「な・・・・・。」
「ねー?」
いつもの事なのであろう、全く普通の顔して言うオルに頭を抱える。
「オル・・・あんた大丈夫なの・・?何もされてない・・?;;;」
「ぇーとね、たまにいきなり『だいちゅき☆』とか耳元で言ってきたり、お酒くしゃーい息ぷはーってかけられたりね。」
当たり前のように言うオル。
INESS盟主、今すぐ帰ってきやがれ。あんたの養女はこんな恐ろしい血盟にいるのよ今。
とか思いながらため息をつくとオルはにこにこ笑う。
「だいじょーぶ!二人変態さんなのお酒飲んでる時だけだし、他はみんなまともだもん!」
さりげなくグサグサ毒舌を吐きながらオルが言う。と。
セイクレッドの目に入るオークが一人。
「・・・・・そこのオークさん。」
「・・・俺か?」
ローブを着たオークが振り返るとセイクレッドはスタスタと近づき
これまた首元をひっぱり耳に口を寄せる。
「いきなりだけど、私オークとのハーフなの。つまり半分は貴方と同じパアグリオの血が流れてるワケ。
一応こんなナリだけど兄弟なわけよ、オーケィ?」
「・・はぁ。」
気のない返事をするオークにかまわず言葉を続ける。
「で、兄弟のよしみで頼みがあんのよ。オルが変な事されないように守ってやってくれない?
おたくの盟主と元盟主、色々危なそうじゃない?」
そう言うと、合点が言ったというように顔を上げる。
「大丈夫だろ。あれ見て。」
指差した先を再び見ると。

「気色悪いわーーーー!」
「ぁーはぃはぃ、分かったから少し正気に戻りやがれ。」
先ほどの酔っ払い二人に容赦なく毒舌と鉄拳を浴びせるHMの女とドワーフの少女。
「わーぃ、ブルおねーちゃんカクイーヽ(´▽`)ノ」
それを見ながら大喜びのオル。
「・ ・ ・ ・」
もう呆れるしかできないセイクレッド。その肩を叩かれ振り返る。
「こんにちは、初めまして。」
「ぇ・・・ああ、初めまして。」
「オルちゃんと同じ血盟のるーしぇです。よろしく。」
ここまでの流れで出てくるとは予想の出来なかった、まともそーな爽やかスマイルのHMの青年に手を出され
慌ててセイクレッドも手を出す。
「こちらこそよろしく・・・・。あの、失礼ですけど本当にあの人盟主なの?」
少し離れたところでなにやらわいわい騒いでいる酔っ払いを指差して尋ねると笑いながら答えられた。
「そうですよ。ね、オルちゃん。」
てくてくとやってきて青年の足にぴとーっとくっついたオルに話を振る。
「あのねーおばちゃん、るーおにーちゃんはやさしーよ(・_・?)」
「・・・はって事はそうじゃない人もいるってわけか。」
「んーん。みんなやさしーけど、変な人いっぱい(・_・?)」
どんな血盟だか追及するのも怖いなと考えていると後ろから、
先ほどまで元盟主に鉄拳をかましていたタラムローブのHMが口を挟む。
「オルちゃん私はー?」
「エミおねーちゃん大好きーヽ(´▽`)ノほっぺちゅー。」
「ぶちゅー。」
・・・・こいつらは一体

何をしているんだ。

オルが楽しそうだからそれでいいんだろうとは思いながら
以前、オルが私塾まで相談に来て加入したい血盟があると言っていた血盟が
恐らくはこの血盟だろうとは思うのだが、その時の話では
『面白い人がいっぱいでよく遊んでくれるやさしー人ばっかりの血盟』と言っていたはずだ。
何か違わないか?いや、違うだろう絶対。
「大丈夫です。二人も酒が入ってなければ結構普通ですから。」
「というかあんたらは酔っ払い連れてクラハン行く気なわけ?」
離れた場所で「スポれんドワめー!」などとのたくってるを見てため息をついて言う。
「大丈夫なのおばちゃん。あのね、酔っ払うと変態さんになる代わりに
ぱわーあーっぷするんだよ。あの二人。ねー?」
「・・・どこの酔拳使いよ・・・・。まぁいいわ。オル?」
少ししゃがみ、オルの目線に合わせる。首をかしげたオルの頭を撫でながら
「楽しんでる?のよね?」
そう問うと
「うん!」
そう満面の笑顔。
これ以上は自分が否定する理由も、心配する理由もないと思いわずかに微笑む。
「そう。ならよかったわ。じゃぁ私帰るから。」
言いながら立ちあがり、軽くオルの血盟の人たちに会釈をしてから
デーモンローブを翻し、人ごみの中へと消えてゆく。
「おばちゃーん、今度狩りいこーねー!」
そうオルが叫ぶと振り返らないまま手を振り返し、やがて
その姿は見えなくなった。

「今のが前に話してたプロフか?」
セイクレッドの後ろ姿を見守っていたオルの頭に大きな手が乗っかってくる。
「うん・・・。」
「強い女だな。」
そう言葉を続けたのは先ほどまで上半身裸で全開で酔っ払っていた盟主だ。
「・・・ていうかめーしゅ。なんでいきなりフツーに戻ってるの(・_・?)
絶対おばちゃんオルちゃんが危ないクランにいるって勘違いしちゃったよ。」
少し膨れながら言うと悪びれた様子もなく
「違うねん、俺らは場を和ませようとだね。」
と言う。
「ま、今度狩りでも誘おう。気分転換にはなるだろ。」
酔っ払いその2のはずの元盟主もオルの頭に手を乗せて言う。
「・・・うん、ありがとう。・・・でもね・・・おもーーーーーいーーーー!!!」
そう叫びながらオルは走って、るーしぇの後ろに隠れる。
「あーっひゃひゃっひゃ。」
ゲラゲラ笑う酔っ払い親父x2を見ながらオルはまた膨れて見せる。
「どうでもいいけどそろそろ行かね?」
「んだなー。」
わいわいとクラハン目的地へと向かう血盟員に囲まれた中にいる。
これが、あれからオルが選んだ道。