「ただい・・・ま?」
大量の買い物袋を抱え私塾に戻り、外でゲートキーパ、ミネベアと少し立ち話をしてから私塾の洞窟に入ると
セイクレッドは入ってすぐで立ち止まった。
「・ ・ ・ ・これは・ ・ ・ナニ?」
下へ続く階段の長い曲がり廊下は、ただでさえ先が見づらいのだが
それ以前に大量の煙が入り口に向かって迫ってきている。
「やっばっ」
くるっと元きた道へと走りだし、洞窟を出る
「おやヨハネスどうした?忘れ・・・もーーーのーーー?!」
「ミネ!こっちよ!」
振り返りポカーンとしたミネベアを煙の進行方向から死角になっているところへ引っ張り込む。
「これはなんの騒ぎだ?」
「私が知るわけないでしょう、昨日帰って来てないんだから。どーせまたハーディンが何か失敗したんじゃない?」
「ハーディンなら今朝早くに出かけたぞ。弟子二人連れて。」
「・ ・ ・」
その言葉に未だに煙がもくもくと出てくる私塾を見やる。
そしてため息ひとつ、わずかに神経を集中する。
「・・・来客で誰か暴れたみたいね・・・・。ミネ、悪いけど少し荷物お願い。日陰にでも置いといて。」
「分かった、お前も大変だな。」
「本当だわ。誰が掃除すると思ってるのかしら。」
「そっちが問題なのか。」
腰の布袋をといてフィストブレードとデーモングローブをしっかり装備する。
「当然。とりあえず暴れてる奴しばいてくるわ。じゃ、また後で。」
「ああ、気をつけてな。」
軽く手を振りそのまま煙の中へと突入する。
「全く、あの女はあの力を封じているのによくやる・・。」
皆様忘れてはいないだろうか。
現在パブテスマ家の長女であるセイクレッドは

その力を自ら禁止している。

「なーにやってるのかしら?!」
カンだけを頼りに広間に出ると珍しく怒ったイカルスを弟子たちが止めている所だった。
その向かいにはダークエルフの男女が二人。
「ヨハネス。。。」
「ヨハネスさん・・お、おかえりなs」
「そんなのはどうでもいい。何をしているのか聞いてるの。」
煙の中殺気がんがんで騒ぎのまん前に仁王立ちをする。
「なんだこの女は。私はハーディン氏に話・・・・おぉ?!」
いらつくように言いかけた男の頬にセイクレッドの左ハイキックが決まる。
「ガラドリッド?!」
「悪いけどハーディン出かけてるのよ。イカルスとカスパーじゃ不満だと言うのなら
私が話を聞くわ。とりあえずイカルス!この煙全部外出して。」
倒れた男と駆け寄った女に上から45度の目線を腰に手を当てたまま向け、
そう放つ。
「しかしヨハネス!こやつは私を・・・。」
イカルスが何か言いかけたが
「・・・聞こえなかった?煙全部出してって頼んだのよ?私は。」
それ以上ぐだぐだ言うならしばくぞと言う目つきでイカルスをにらむ。それ頼んでるって言わない。
「・・・分かった・・・。」
あっという間に風を起こし、見晴らしがよくなる。
それを確認してセイクレッドは再び二人を見おろす
「とりあえず茶入れるわ。こっちきなさい。カスパー、悪いけどミネから買い物袋とってきて。
外に預けてあるから。拒否は許さないわよ。」
全く『悪いけど』というセリフが意味をなさない。既に脅しだ。
「マリア、ケリー、軽くでいいからここ片付けておいて。昼飯出す場所だけ確保しといて頂戴。
あと洗濯物集めておいて。話終わったらやるから。」
「分かりました!」

皆様お忘れになりませんように。
この人は

ただの私塾の寄生虫です!

「・・・で。ハーディンに何の話しに来たのよ?」
爪とグローブをはずし、茶を入れて座る。
「そもそもお前は誰だ。」
腫れた頬をおさえながら言う男にもう一発かましてやろうかと思いながら
ため息をついて我慢する。
「ハーディンのダチよ。25年ここで家事全般やってる。名前はヨハネス。」
「ハーディンの女か。」
「あいつが女に興味があると思うぅ?25年一緒に住んでてそんな話聞いた事すらないわよ。」
むしろこいつに手を出せる男がいるなら是非見てみたい(by中の具)
「ふむ・・・・。私はガラドリッド。こっちはアナスティアだ。スキル強化のマスターとマジスターをしている。」
聞きなれない言葉に眉をしかめる。
「スキル強化?」
「最近アデンでは己の職を限界まで極めた者が増えているのはご存知か?」
「ええ、ぶっちゃけレベルMAXって話でしょ?かなりいるわね。」
セイクレッドさん・・・・オネガイそれ以上世界観ぶちこわさないでおいてくれ・・・。
「ま・・・まぁそんなカンジだ・・・MAXではないが似たような・・・。」
「で?」
「ある程度熟練した3次職の者であれば特定スキルを強化する事が出来ます。我々は
それを指導する者。今回こちらにお邪魔したのはここを指導の場としてお借りしたいと
思いまして。」
ふーんとお茶をすすりながらセイクレッドは少しの間考える。
「いいわよ。」
「は?!」
「いいわよって言ったの。いくつか条件はあるけど。つまりあれでしょ?
そのスキル強化を教える場所探してて、住み込みでここでやっていいかって話でしょ?」
こともなさげに言う。
「そんな簡単に・・・。」
「条件はあるわよ?ひとつ、毎月1人30kのアデナを入れる事。ひとつ、ここでの得た情報は外へもらさない事。
ひとつ、いずれここの弟子たちがその教えを必要とした場合通常の3割引。このくらい?」
立ち上がり、二人の空いた湯飲みにお茶を注ぎながら言う。
「30k・・?」
「食費だの家賃よ。まぁハーディンは私が説得して(脅して)おくわ。他に何かある?」
「あ、いえ・・・。」
「じゃぁ部屋準備するから少しここにいて。誰かいないー?」
廊下から顔を出して声を上げる。
「どうかしました?ヨハネスさん。」
洗濯物を集め終わったらしいケリーが振り返る。
「誰か手空いてるのいたら、悪いけど飯のルールとか、洗濯もの7時までに出せとか
その辺この二人に説明してやってくれない?」
「いいですよ。あ、先ほどハーディン様から連絡がありまして、今夜のうちには戻れそうだとの事です」
「OK、じゃ晩御飯はあいつ帰ってからでいいわね。それまでに家事終わらせられるかしら・・・。」
ぶつぶつ言いながら部屋を出る。それを見送ってからハーディンの弟子の1人、ケリーは
部屋に入り二人に話しかける。
「では説明しますねー。」
「その前にひとつ聞いていいか?」
「はい?」
「あの女は一体何者だ」
怪訝な顔で尋ねるガラドリッドに苦笑を向ける。
「ああいう人なんで気にしないでくださいね、根は優しい方ですし。料理も上手だし。」
「そうではない、あの女からは異質な匂いを感じる・・・」
その言葉に少しきょとんとしてから再び笑顔を戻した。
「やはりマスターのレベルになると分かるモノですか。彼女は神聖生物の一族、パブテスマ家の方ですよ。」
「パブテスマ?話せる島のあのパブテスマですか?それにしては強い魔の力を感じる・・・。」
アナスティアの問いにケリーは少し迷ってから答えた。
「・・・自分の後悔の為に魔族と契約されているんです。あれでももう50歳は
越えています。・・・・魔族を内に抱えた神聖生物、それが彼女です。」
顔を見合わせる二人。
「そんな話をしていいのか?来たばかりの私たちに。」
「本人隠していませんし、それに私塾内で得た情報は口外厳禁・・・言われませんでした?」
「・・・・・」
「もうひとつだけ教えておきますが、彼女はクレリック時代にハーディン様とやりあって、勝ったそうです。
それだけの実力は持っていた・・・・。その事は覚えておいた方がいいですよ?怒らせると怖いですから。」
「一次職でハーディン氏に勝った?!」
身を乗り出した二人に変わらず笑顔を向ける。
「ハーディン様は話したがりませんが、興味があればヨハネスさんなら話してくれますよ。
かなり卑怯な戦いだったみたいですけど。」
にこにこ笑いながら紙とペンを出す。
「それじゃここで生活する上で必要な事を説明しますねー。破ると良くて食事抜き、悪いとヨハネスさんに
蹴られますのでご注意ください^^」