「まぁそういうわけだから。よろしく。じゃ晩飯にしましょうかー。」
「待て、ヨハネス。」
帰ってきたハーディンに簡単に事情を説明する。時間も遅かった為、さっさと飯に
しようとキッチンに戻ろうとするヨハネスだがそれを呆れた顔でハーディンは呼び止めた。
「ナニよ?」
「またお前は勝手に・・・・」
「話を聞いた上で、あんたなら多分OKするだろーと思ったから了承したのよ。
今の説明でどーよ。あんた居たらOKしてるでしょう。」
髪をかきあげながら事もなさげに言う。
「そういう事を言っているわけではない!何故私が戻るまで待たせなかったのかと言う話をしている。
何かある度にお前は・・・・」
「ハーディン。」
長くなりそうだと判断したセイクレッドは途中で口を挟む。
「何だ。人の話は最後まで・・・・。」
スタスタと近寄りハーディンの耳元に口を寄せる。
普通の男ならトキメクところだろうが・・・・セイクレッドのこの行動が、自分にとって超危険な行動であることは
付き合いの長さ故ハーディンはよく知っている。
嫌な汗が背中を流れるくらいの間をおいてセイクレッドは囁いた。
「・・・あの事、みんなにバラすわよ?」
「う・・・・。」
「いいの?私が話したら威厳も何もなくなるんじゃなぁい?」
楽しげに続ける。
周りのイカルスや、弟子、例の二人は聞こえず何事かと見ている。
若干顔色が悪くなり始めたハーディンを楽しそうに見ながら離れる。
「もう一度言うわ、そういうわけだからよろしく?ハーディン?」
「・・・・勝手にしろ。」
「ええ、そうさせてもらうわw」

何度も言うようだが、ヨハネスことセイクレッドは
ハーディンの私塾の

居 候 で す。


「・・・まだ何か文句あるわけ?ハーディン。」
夜も更け、酒瓶片手に私塾の洞窟の上に座りながら月明かりと小さなランプの光で
本を読んでいたセイクレッドの背後に立つ人物が1人。
「いや、夕方の件はもう諦めた。」
「そ、懸命な判断だわ。」
笑いながら再び本に目を落とす。
「二つほど、お前にが興味を持ちそうな情報を得たのだが・・・聞きたいか?」
「何ー・・・日曜のギランの特売なら知ってるわよー・・・。」
古代語で書かれた本を、悩みつつ読解しているセイクレッドは顔も上げずに答える。
「ひとつは、アインハザードの神殿絡みの話だ。」
「私がとうとう天敵とか言われて指名手配とかー?」
「まぁ、似たようなモノだろうな。20年以上神殿にスキル教授などで来ていないプロフィットとビショップの
教団のリストからの抹消が決定したそうだ。」
「うわ、20年ってピンポイントに私に対する嫌がらせっぽいんだけど。」
「だろうな、どうする?」
「どうするも、もう消されたわけでしょ?・・今の私にプロフィットを極める理由なんてないもの。
それでも構わないわ・・・。別に。」
若干ふてくされたような態度で再び本を読み始める。
「で?あとひとつは?」
そう尋ねるセイクレッドにハーディンはひとつ咳払い。
「・・・?何よ。」
「それを話すにはひとつ条件がある。」
「は?」
「事あるごとに25年前のアレを持ち出して私を脅すのはやめてくれないか。」
「・ ・ ・ ・ ・ ・」
セイクレッドがぴたりと止まる。
「この情報はお前が必ず必要とする情報だ。これを教えてやる代わりにだな・・・。」
「いやよ。却下却下。」
何を言い出すかと思えばというフリであざ笑うように酒ビンを傾ける。
・・・そろそろキレてもいいと思いますよハーディンさん。
この女完全に調子に乗ってますよ。
「・・・考える間もないか。」
「フン、私がそんな交渉に応じるとでも思った?人間、諦めが肝心よ?」
笑いながら言うセイクレッドにため息をつきながらも苦笑を浮かべる。
「お前相手では・・・な。まぁいい。どうせお前の事だ、それでも私が話すだろう事も
分かっていて言ってるのだろう。」
「ご名答。あんたの考えならここの弟子らだのイカルスよりよっぽど分かってるつもりよ。」
「いつになったらお前に勝てるのやら・・・まぁいい。先月の話だそうだが・・・
エルフの村の、例のヒューマンの少年の墓に花が供えられていたそうだ。」
その言葉にセイクレッドは動揺を顔に出した。
「少年ってあいつの相方の・・?彼には身寄りもろくに友達もいなかったはずよ・・?!」
「しかも彼女が消えてから放置された彼の墓の掃除をしていたのはお前。あくまで予想だが・・・。」
そこまで言ってセイクレッドの表情が複雑に変わった事に気づき言葉を止める。
「まさかあいつが・・・?」
「ただ、それだけの情報だが・・・お前の『光』にはなるだろう?」
それだけ告げるとハーディンはクルリと方向を変え「おやすみ」と一言言うと
私塾の中へと入ろうとする。
「ハーディン」
セイクレッドに呼び止められ振り返ると先ほどまで読んでいた本を向けていた。
「コレの訳、大体出来たから明日の朝までに出すわ。・・・情報の礼よ。」
「ああ、頼む。」
一度だけ、弟子の1人であるカスパーにセイクレッドは洩らした事があった。
自分とハーディンの関係を「親友」だと。
そしてハーディンもまた、セイクレッドを「友」であると。

これがセイクレッドが今、歩いている道。







☆おまけ☆
「はぁ、本当にあの二人に男女関係はないんですか?」
私塾に新しく仲間入りしたアナスティアの言葉にイカルスは当然のように言う。
『よく考えてもみろ、あの二人の場合、異性に興味などまるでない。まだハーディンなら
浮いた話のひとつくらい可能性はありそうだが

あのヨハネスだぞ。無理だろう。不可能だろう。ありえん。』

「・・・・確かに・・・・。」
『気は合うらしいのだがな。古代語のネクロマンシーの本を持ってくると
子供のように二人で騒ぎ始める。』
「そういうイカルスさんはどうして?ハーディン氏に弱みを握られてるのは聞きましたが
貴方がヨハネスさんに頭が上がらないのは・・・?」
『・・・奴の神聖生物の血が天敵なのだ・・・私が攻撃を加えればその返り血で
私自身も消滅は免れぬ・・・。』
「・・・精神面からのアタックという方法は・・?リッチキングともなれば可能では・・・。」
『可能だが相手がヨハネスでは全く効果はなさぬ。』
「ああ・・・確かに効かなそうですね・・・。」
「ん?何の話?」
『いや!なんでもない!ヨハネス!』
「なんでもありません!!!!」