ー貴方がくれた月の欠片ー

「オルちゃん、お手紙着てるよ?」
「えーどれどれ〜?」
クラハンののち、宿屋に戻り、オルは1人部屋に戻ると
宿の主人と話をし、オル宛の手紙を預かり部屋に入ってきた
血盟員からそれを受け取る。
「誰から?」
「んーとね、おばちゃんからだ・・・・よいしょ。」
かさかさと封を切る。
「・ ・ ・うー・・・・・おばちゃんてばもー・・・。」
読み始めてすぐ、オルはむすっとした顔になる。
「どうしたの?」
「おばちゃんがまたピアス壊したから直してって・・・。
まだギランまで着てくれるだけマシかなぁ・・・」
よっこいせと立ち上がりバッグの中から着替えを出す。
「AJおにーちゃん、オルちゃんお着替えするから出てってぇ〜。」
「はいはい。」
「あ、夜ご飯までには帰るからねっオルちゃんもみんなと食べるからねっ。」
「伝えておくよ。」
部屋から血盟員の姿が消えると、着ていたフルプレートアーマーを脱ぎ、
着慣れたブレスドローブへと着替える。
そしてその胸元にはひとつの指輪と、月を模ったペンダント。
「・・・おばちゃん壊しすぎだよ・・・INESSの証・・。」
オルはそうぼやきながら自分のそれを撫でる。
かつての盟主から渡された、『INESS』の証を。

「よいしょよいしょー。」
とりあえず工具と財布だけバッグにつめてギランの西にある宿屋を出る。
まだ昼を少し回ったばかりの町は賑わい、あちこちで出ている露天商を避けながら
手紙に書かれていた場所へ向かう。
この前その場所に行ったのは先月の事か。
彼女が居た頃はほとんど毎日立ち寄っていたあの場所へ。
「おばちゃーん、セイクレッドおばちゃーん」
名品館前の木の下に座って本を読んでいたセイクレッドを見つけ
オルは手を振る。
「オル。」
顔を上げたセイクレッドは本を閉じ、カバンへとしまい代わりに小さな布包みを取り出す。
「まーた壊しちゃったのぉ?!」
「壊すつもりはないんだけど・・・。ま、頼むわ。」
そう言いながら留め具の壊れたピアスを布包みを開き見せる。
「もー。このくらいならオルちゃんでも直せるけど、オルちゃんはバウなんだよ?
スミスさんじゃないんだから・・・あんまり壊しちゃうと直せないからね?」
むーと言いながらも持ってきた布を広げてその上に工具とパーツを並べる。
「はいはい、分かってるわよー。」
そうのん気に言いながらオルに指された場所へ布包みを置く。
「ふみゅ。ぇーと・・・・。」
ぶつぶつ言いながら工具とパーツと壊れたピアスを見比べて作業に取り掛かる。
「で?今度は何やったのおばちゃん。」
顔を上げずに言うオルに笑いながらセイクレッドは答える。
「いやー、私塾の新しい居候とやりあってさー。あの野郎ソード出してきやがってきたからしばいてやったのよ。」
「・ ・ ・ ・おばちゃん、ほどほどにしないとハーディンさん胃に穴開いちゃうよ。」
片目にルーペをして工具を動かしながら言う。
「はいはい、で、どう?直る?」
オルの話を軽く流し覗き込む。
「大丈夫、ピアスとチャーム繋いでるのが壊れただけだから交換するだけだよ。
すぐ出来るからちょと待ってねぇ。」
手際よくカチャカチャと修理する。バウンティハンターとは言えドワーフ。
こういった事は得意なのだろうさくっと直しセイクレッドへと指し出す。
「はい、出来た。今度こそ大事にしてね?」
「さんきゅー。」
オルの話を聞いてるのかいないのか、直ったばかりのソレを左耳へと通す。
「全く。おばちゃん壊しすぎだよぉ?そのうちなくしちゃうんだからね!」
「それは大丈夫。・・・ないと落ち着かないから。」
そう言って一瞬だけ黄昏るような目を見せる。
「・・・・うん。あ、そういえばおばちゃん、探してたミスアキュ、さっき露店で出てたよ?」
話題を変えようとここに来る前に通った露天商にセイクレッドが探していたそれがあった
事を思い出す。
「どこ?」
「こっちこっち〜」
そう言いながらしまい終わった工具類を背負いセイクレッドの手を引く。

『月の名を掲げるボクらだから、だからこれは月の欠片。』

「え?」
「あぅ?」
風の中に、懐かしい声が聞こえた気がした。
・・・・と

カシャン・・・・コン・・・・






「あ、取れちゃった・・・・待ってぇ〜」
「流石にあんたのもガタ来てるわねぇ」
突然、オルのペンダントヘッドが外れ地面を転がる。
あの、INESSの証が。
「ん?」
「どうしたのお姉様。」
「いや何か転がって・・・・何だろ、ペンダントトップ?」
それを姉と呼ばれた少女が拾い上げた。
「ごめんなさーいーそれオルちゃんのぉ〜」
走ってくるオルに気づき少女はそっと手を出す。
「はい。」
「ありがとうです〜。」
そう、オルの手が少女の手に触れた時だった。
「う・・・・」
急に目がかすみ視界がぼやけ、目をこする。
それと同時にオルを襲う倦怠感。
「どうしたの?目に何か入った?」
少女は屈み込み出されたままの手を握る。

『祈りは届きましたよ・・・・我の揺り篭よ・・・』

「お姉様、様子がおかしいよ。ビショップとかに診せた方がいいんじゃない?この子」
「うん。そだね。お嬢さんお名前は?お母さんは一緒じゃないの?」
姉妹である二人のエルフの少女たちが心配そうにオルを見つめる。
その様子を離れた場所で見ていたセイクレッドは何か変だと駆け寄ってくる。
「そいつ私の連れなの。心配かけて悪かったわね。・・オル?どうしたの?」
顔が白い、そしてかすむ目をこすっていた左手でセイクレッドの腕を
掴んだ。
「おばちゃん・・・聞こえるの・・・・オノエルさんの声が・・・!」
そう必死な顔でオルがセイクレッドを見た瞬間。

強い風が吹いた。

「きゅ・・・・・」
途端に崩れるオル。それに気づき慌ててその体に手を伸ばす姉妹。
それを腕を掴んだままのオルの手に自分の手を添えながら、
自分にだけに見えていたモノが何なのか気づきセイクレッドは眉をしかめた。
『今のは・・・・オルの中のオノエル・・・?その翼・・?』
「あの!」
考えをめぐらせていたセイクレッドは少女の声で我に返った。
「この子、ビショップに診せた方がいいんじゃ?知人あたりましょうか?」
エルフにしては背の低い姉らしき少女に言葉に
「あ・・・大丈夫よ多分。原因は大体分かるから。少し休ませれば大丈夫。」
そうかろうじて答えた。
本来揺り篭の内で眠っているはずの『オノエル』その力が一時的にでも
表に出たのは間違いない。
スリエルでさえ一度、あの隠された遺跡で話をしただけで
オノエルに至っては一度として出会った事はない。
オルの中で『眠る失われた歴史』の神の1人。オノエル。
今までこんな事はなかった。
何故、急に。