9、悪あがきの果てに


「おねーちゃん!」
「あ、おはよぉオルちゃん。元気になったみたいだね。・・とえーと。」
翌朝、オルは迷っているセイクレッドも強引につれて
名品間前の木の下へと来ていた。
「ヨハネス・パブテスマ。プロフィットよ。こんな装備だけどいないよりいいでしょぅ?」
相変わらずのデーモンローブのセイクレッド。
オルにブレスドを貸そうかと聞かれたが「動きづらい」ときっぱり断ったのは彼女らしいと言ったところか。
それでも昨夜、悩みに悩み、ほとんど寝ていない為わずかに腕が重く感じる。
「プロフさんだったんですね。あ、私テンプルナイトのヨハネ・カザヤって言います。昨日はどうも。」
「オルから聞いてるわ・・・・。今日はもう一人は一緒じゃないの?」
もう一人・・・昨日一緒にいた金髪のエルフの事をさしている。
「ああ、ラズリ・・・妹は・・・縮毛ストパかけに行くって断られました;」
「・・・変わってるわね・・・シルレンなんでしょ?戦闘ばっかしてたらすぐとれそ・・・」
「おしゃれさんなんだねぇ妹さん〜。」
にこにこ言うオルの頭をなでながら「それじゃ行こうか」そう笑うヨハネを
一番複雑な思いで見ていたのはセイクレッドだ。
昔見慣れていた光景のはずなのに呼び方は「オルちゃん」「ヨハネスさん」
しかも自分には敬語を使っている。
確かに彼女の面影というか、性格と近いのはセイクレッドにも分かる。
だけど「覚えていない」その事実だけでこんなに彼女が彼女であると
認められないとは、自分自身で思っていなかった。
そもそも、覚えている可能性の方が低いのにどうしてずっと期待していたのか。
自分らしくない甘い考えにセイクレッドは苦笑をもらす。
「どうかしました?」
「え?あ、何でもないわ。そろそろBUFFね、かけなおす」
「よろしくねぇヽ(´▽`)ノ」
破壊された城跡でモンスターの少ない位置を探し、魔力の大分減ったヨハネのオルが座る。
手袋を外して適当に歩きながらヒールをしていたセイクレッドはそのままいけると今日数度目の詠唱を始める。
「オルちゃん、今日はあたしお弁当作ってきたから後で食べようね。」
「本当〜?なんのおべんとー(・_・?)」
「あんまり料理は得意じゃないんだけど・・・おにぎりとね、ローストチキンと厚焼き玉子。
他のおかずはラズリに作ってもらっちゃった。妹の方が料理は得意なんだよ。」
ホーリーウェポンの詠唱をしながらその会話を聞いていたセイクレッドは
詠唱を止めずに眉をしかめる。
『あいつの数少ない得意料理と同じじゃない』
しばらく様子を見ると、オルと相談してた時に言い出したのは自分だ。
だけど確信を焦る自分に気づく。
自分のしてきた事が無駄ではなかったという証拠を欲しがっている。
『ハーディンに前世の記憶呼び戻す秘薬とかないか聞いてくればよかったわね。』
そんな事を考える自分に呆れながらも詠唱を終え地に足をつける。
「OKよ。・・・・どうかしたの?」
ありがとーと見上げてくるオルと対照的に、ヨハネは座ったままある方向をじっと見ていた。
「おねーちゃん?」
「・・・やばいかも。」
そう呟くと立ち上がりディフレクトアローをかける。
「もし、あたしがアルティメットディフェンス発動したら帰還してください。」
フルプレートアーマーの装着状態を確認しながら盾を軽く叩き強度を確認しているヨハネに
再びセイクレッドは「どうしたのよ?」と声をかける。
「多分MPKだと思います。」
そうヨハネが答えた時だった。

ドゥーム系列のモンスターが多数、確実にこちらに向かってきた。
「最悪・・・走るわよ、ヨハネ、オル!」
「帰還してください、この辺りのモンスターの多さじゃ逃げてる間に自ら数を増やすだけです。」
冷静な口調で構えをとるヨハネに「ああ、こいつならそう言うわよね。」とセイクレッドは
ため息をついた。そして

『・・認めてるんじゃない私。こいつがうちのボケ盟主だって・・・。』

と思わず笑う。
「ヘイトとUDで時間を稼ぎます。早く帰還・・・」
「オル。」
ヨハネの言葉を遮りセイクレッドはオルを見た。
「こいつ連れて逃げなさい。ここは私が食い止める。」
「え・・・・」
昔の笑顔だった。あの時からセイクレッドがしなくなった自信満々の、挑発的な笑顔。
「何を言ってるんですか?!プロフのヨハネスさんが耐え切れるわけが・・」
再びヨハネの言葉を遮り、セイクレッドは笑って見せた。
「オル。こいつを死なせるわけにはいかないわ。・・・行って。私はもうあんな後悔絶対にしたくない。」
その笑顔と言葉を聞いて「そんなのダメだよ」そう言おうとしていた口をオルは閉じて唇を噛んでから
「耐えてね、アデンならオルちゃんのお友達いるかもだから、急いで戻るから!」
そう叫びヨハネの腕を掴む。それを見てセイクレッドは頷いてから前を向き直りグローブをはめ、
背中に背負っていた布包みを乱暴に解く。
そして鞘もなくむき出しのままのそれを手に取りしっかりと構えた。
彼女が消えたあの日、その場に残された、彼女のデスブレスソードを。
「ヨハネスさん?!」
「・・・ヨハネスじゃないわ。私はINESSの神聖。思い出してくれると嬉しいわね。あんたが勝手につけた
私のあだ名。」
背中を向けたままそう言い、少しだけ振り返り笑って見せた。そして
「オル!」