「・・・・へっくしゅ。」
小さくクシャミをして鼻をこする。腰にエルバソとデスブレスを下げ、
デーモンセットをしっかり着込み珍しく髪を軽く結っているヨハネと
借りてきたミスリルローブではなく、いつも来ている強化レザーの軽装備セットに身を包み
これまた借りてきたエルバソを腰にぶら下げたセイクレッド。
「セイクレッド寒くないの???てゆーかなんで強化レザーなの?」
その言葉に笑ってみせる。例のオルの宿屋の裏手。雪の降り出した路地裏に二人はいた。
壁に寄りかかり中の音を聞くセイクレッドの肩の雪を払いながらヨハネは寒い寒いと
身体を動かす。
「本気装備よ本気装備。今武器これしかないから妥協してるけどね。」
「足さむそー・・・・。」
「鍛え方が違うのよあんたとは。・・・そろそろかしら。」
壁にぴったりくっついているセイクレッドは中の声を聞きながら呟く。
「中、何話してるの?」
「あー昨日と一緒。まーたいびられてる。」
「・・・殴りこんでいい?」
「ダメ。ちょっと彼女には我慢しててもらいましょう。本命はそっちじゃない。」
そう目を閉じ、静かに呼吸を整えるセイクレッドの顔にしぶしぶ怒りを納める。
と。
「動いたっ行くわよっ!!!!」
壁から道の方に目線を追ったと思うとセイクレッドは突然走り出した。
その後を慌てて追い、走り出す。WWは既にかけてある。
「ちょっあわあわ。」
雪につまずきそうになるヨハネを振り返りもせずにセイクレッドは何かを追って走り続ける。
「セイクレッド待った!!!!」
その腕をかろうじて掴み止める。そのつま先は崖の小石を落とすにとどまった。
「あぶな・・・・・。」
「上しか見てなかったしね。あっちから降りられるみたい。」
かなり離れたところにある灯りを指差すヨハネに下を見ながら耳をすませ、舌打ちをすると
「下か・・・そんな時間ないわ。」
そう呟きその身体を軽々と横抱きに抱えると崖下を見る。
「ま・・・まさか・・・・。」
「しっかりつかまってて。ついでに灯り。炎は消えるからライトの魔法よろしく。」
そう言ってセイクレッドは迷わず地面を蹴った。
「に・・・・・にーーーNe baran nokian lilicうぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ。」
必死な詠唱は間延びしながらも形を作る。左腕をセイクレッドの首にかけ、
右手をできるだけ伸ばして崖をすべり降りるセイクレッドの足元に向ける。
これだけの急斜面を絶妙なバランス感覚でヨハネを抱えたままブーツのカカトで滑る。
それほどの深さではないはずだが、どこまで続くのかと思ってしまう。
そんなギリギリの神経で少しして、セイクレッドはそのまま崖を蹴り跳んだ。
「ぐっ・・・・・」
ヨハネを下ろし、座り込む。
雪のクッションがあったとはいえ流石に足に来たらしく冷や汗を浮かべる。
「セイクレッド?!大丈夫?!」
「へーきへー・・・・・ん?」
辺りを見回す。何かが闇の中で動くのが見えた。
薄くかかっていた雲が流れ、月灯りを雪が反射してあたりが見えるようになる。
「・・・野犬っでかっ。」
そう言いながらデスブレスを引き抜きセイクレッドの前にヨハネが立つ。
「Rikin shanain gonoa ZAPIAN    A toll de rizahan ZAPIAN」
補助魔法を座ったままかけてやる。アキュメン、シールド、WWを施すと
セイクレッドはよろっと立ち上がり後ろを見た。
  ここだ・・・
「ヨハネっそっち任せた!」
「分かった!!!」
ヨハネのフレイムストライク詠唱と同時にセイクレッドは月明かりの影になっている
くぼみのあたりに歩み寄る。
小さく詠唱して出した光で照らされたそこを見て、吐き気を覚えながらも
眉をしかめただけでひざをつく。
「・・・・・地縛されてる・・・先にこっちをはずさないとだめね・・。」
そう、呼吸を整え詠唱を開始しようとすると後ろから叫び声が上がる。
「セイクレッド!バサクとホーリーウェポン頂戴!あとマイトとフォカ!
こいつらただの野犬じゃないっ!」
舌打ち一つして振り返り言われた魔法の詠唱を叫ぶ。
「Isheva hla hatariya riric!   魔力大丈夫なの?!」
「さっきマナリジェ入れたから15分くらいは持たせられる!
フレイムストライクじゃ微妙に残っちゃうだけ!」
詠唱をしては焼かれても尚突進してくる野犬に剣を降ろす。
そしてそれが絶命するとターンを繰り返し踊るようにスペルを歌いながら再び炎を放つ。
その姿を見て持久力のないヨハネには20分が限界だと思いながら再び向き直る。

「・・・・私の声が聞こえますか?私はヨハネス、パブテスマの名を継ぐ者。
娘さんの、オノエルの声が聞こえますね?彼女が貴方たちに救いを求める声が。
そして貴方たちも彼女を呼び続けている。・・・・私が力を貸します。」
そう呟いてから短剣を出し、塞いだばかりの傷に当てる。
流れ出した血も、痛みさえも気に止めずに目を伏せ言葉を紡ぐ。

この血を証とし、遠き古の盟約の力を我に示したまえ。
呪いを紡ぐ蛇舌の短剣、地を恋しがりし影。
洗礼の風、パブテスマの息吹が全て、全て解き放つ・・・!