『・・・出来た。次は聖域の真言・・・・』
魂の形がしっかりと宙に浮いて見えるようになったのを確認すると大きく息を吐く。
普段、魂のみの相手でさえわずかでもその意志を感じ取れるセイクレッドだが
ここまで日付が経って、なおかつ弱ってしまっている相手の言葉を聞く事はさすがに不可能で。
そしてその状態を予測した上で昼間の流血騒動を起してまで、自分との賭けに出ていた。
足りない器での魔法は器に負担をかけ、その威力は半分以下にまで下がる。
それは黒魔法でも神聖魔法でも同じ事だ。


パブテスマの名において、神の意を紡ぎし者よ、我声に応えよ。
血は力となり、古き盟約を証明する・・・!


それほど深くはないしにしろ、切った腕の血が指先まで垂れてきている左腕を
地面につけ立ち上がる。その血が月明かりで白く光始め、続きの詠唱を始める。

立ち上がりし炎よ、悠久を渡りし風よ、世界を流れし水よ、生命を育みし大地よ、
昼の陽は猛る命を守り、夜の月は安らぎをもってその命を浄化せん。
我神聖の魂はその歩、進めし全ての道を浄化し、聖域となさん。
命は生きる為に、想いは遂げる為に等しく等しく全ての者に与えられん。
ならば、届かぬ想いを紡ぐは洗礼師の定め。
パブテスマが聖女、ヨハネスの名を持って今、その理を成す・・・・!


光り出した血がわずかな光の軌跡を描いて陣を書き、そして消える。
セイクレッドは目を開けふっと笑い、そのまま顎にまでつたっている汗を振り払うようにヨハネの方へ振り返り
そのまま次々に詠唱を繰り返し自分に補助魔法を与えながら剣を引き抜く。
そしてヨハネがわずか詠唱の為引いた横から前へと出る。

「セイクレッド終わったの?!」
「聖域は張れた、後はこっち片付けてからで問題ないわ。」
「なんかねっこいつらアンデッドっぽいよ!。」
「っぽいじゃなくてソウナンデショ。面倒だわ。ヨハネ下がってて。」
「え?!何するつ・・・・」

血の出る左腕を相手方向に振り、血を撒き散らし、精神力と力を剣先に集中させる。
そしてそれを向けると詠唱を叫ぶ。

A tall de rizahan lilic!!!



「・・・どうでもいいけどなんかセイクレッドってデタラメに強いよね。対アンデッド戦。
範囲でディスラプトアンデッドってイロイロ公式ストーリー上問題あると思うんだ。」
「神聖生物でビショ家系だもの。退魔特化スキル無駄にあんのよ。
・・・・・さてと。あんたはここにいて。」
先ほど聖域を張った場所へと戻ろうとするセイクレッドの後ろをついていこうとするヨハネを止める。
「にゅ?なんで???」
「・・・遺体見ないほうがいい。あんたはムリだわ。その辺も聖域範囲内だから音は問題なく聞こえるから。」
そうヨハネを残し、くぼみの所で何やらやり始める。
「ムリ・・・・?」
「ぐっちゃんぐっちゃんになった馬車の中の野犬に食い散らかされた遺体見たいの?」
「・・・・・・・うう・・・でもがんばるもん。」
そう先ほどまでの戦闘中の顔はどこへやら、半べそになる様子に苦笑する。
「本人たちもあんまり見られたくないだろうし、がんばるようなもんでもないでしょ。
ちょっと遺体探らせてもらいますね。」
そう声をかけてから何かを探すようにゴソゴソ始める。
極端に寒いドワ村である為腐臭などはほとんどないのが救いだと思いつつ
目当てのモノを探し出す。
「あった・・・・。とりあえずこんな場所もなんなんで、お二人の魂をこちらに移します。
詳しい話は宿で。」
『待ってください。』
はっきりとヨハネの耳にもその『声』は聞こえた。
顔を上げるセイクレッドの目の前。ドワーフの男性と寄り添うように立つダークエルフの女性。
半分ほど透けたその姿に首をかしげてみせる。
『貴方たちは何者です。パブテスマの聖女が我々に何用ですか?』
その言葉にセイクレッドが説明をするより先に後ろからヨハネが声をあげる。
「えとねーオルちゃんの友達なんだけどー色々あってーーっていうかセイクレッド何しよーとしてるか
ぶっちゃけ知らないんだけどーーーとりあえず一緒にきてーーー。」
幽霊さんにすらポカンとした顔をされているにも関わらずのん気に笑うヨハネに呆れつつ
セイクレッドは申し訳なさそうに呟いた。
「・・・アホな盟主ですみません・・・・とりあえず一緒に来てください・・・・。」