「そういや『聖域』張った意味ってあったの?」
宿へと戻る為テクテクとえらく遠回りをしてから道に出る。
その道中何かを手に握るセイクレッドに尋ねると苦笑で返される。
「あれだけ弱った魂そのまんま依代に移すなんて普通じゃできないわよ;
人の魂物に移す黒魔法は簡単らしいけど逆は難しいの。」
「逆??」
「生きた人間の魂物に移すのはそんなに難しくないらしい。ハーディンが言ってたわ。
・・・だから聖域で二人の魂回復させてついでにコレを洗礼して依代に出来る様にしたわけ。」
そう手を見せてみせる。
手の中には二つの汚れた指輪。
「あ、オルちゃんのと同じリングだ。」
「あの子のと引き合ってたからそれであの場所見つけ出したのよ。あの子の心が全力で
ご両親の事呼んだ時、しっかりその軌跡見えたからそれ追いかけたの。」
「そういやパパさんママさんの魂入れたんだよね?どこいっちゃったの?」
「今フタしてある。傷塞いでも腕に血ついちゃってるからそれの影響でビジョン出ちゃうから。
困るでしょー?村の中手の上に男女の幽霊乗せて歩いてるの見えたら。」
「また大騒ぎだね・・・。」
そんな話をしながら歩きつつ、セイクレッドは安堵のため息をこぼす。
まだ聖域を使えるだけの力の制御はできる。・・・というか昨日から若干、
力の制御がしやすくなっている気がする。
どういう理由かは分からないが徐々に、若い頃なんでもやれた頃と同じだけの器が戻ってきている。
今日だけで、それを感じられるだけの手ごたえを得ていた。
「あ、そだ。ついでにちょっと協力者一人つれて行くから。」
「協力者?」
首を傾げるヨハネを振り返る。
「こーいうのは現地人の協力求めた方がいいもんなのよ☆」

「そういうわけでドルフさん、手を貸してもらいたいんですけど。」
昼間会ったばかりのドルフさんを酒屋で見つけ出し、あっけらかーんと言うセイクレッドに
ポカーンとした顔を向けられる。
「お嬢さんどうしたんだその腕は・・・・。」
泥と血と何かに塗れた左腕を指差して言われてけろっと笑ってみせる。
「いやぁちょっと。それも含めて・・・なんですけど。とりあえず戻って風呂入りますんで
少ししたら宿の方に来てもらえます?」
「それはかまわんが・・・何か状況は変わったのかね?」
「えぇ。まぁここからどうするかはお二人の意思次第といったところですが。」
「二人・・・まさか!?」
「続きはのちほど。じゃ、待ってますから。」
意味深な笑みを残し店を出る。
「さ、行きましょう・・・ってどうしたの?!」
店に入る時、指輪を預けて外で待たせていたヨハネ。
その姿を確認して慌てる。
指輪を左手に持ったまま無表情のまま涙をこぼすヨハネ。
「え・・・・何?」
そのままセイクレッドを振り返り首を傾げるとセイクレッドは顔をしかめる。
「涙。何泣いてるのよ。」
そう言いながら汚れてない右肘あたりで拭いてやる。
「あれ・・・なんかこれ見てたら・・・悲しいのいっぱいドーーって流れてきてねっ
それでね・・・・。なんだろう。」
ぐしぐしと顔を拭き笑ってみせる。そして無言で出されたセイクレッドの手に指輪を返す。
「あんた感受性やたら強いからね・・・影響出ちゃったのかしら。」
「こんなに悲しいんだね・・・パパさんたち・・・」
そう言いながら顔を曇らせる。
「やめたくなった?」
そうふざけて顔を覗き込むとまさかという顔を向ける。
「やめろって言われてもやめないよっ。」
「それでこそあんただ。さ、行くよ。」

「ぁー・・・傷にしみる・・・・・・。」
宿に戻り、宿の主人にも仕事が終わったら部屋に来てくれるように話をつけて
ヨハネとセイクレッドは人のいない露天風呂につかる。
昼間と同じところに傷をつけたせいかまだ塞がりきっていない傷を湯から出し
セイクレッドがうなる。
  
チャプチャプチャプ

その横でなにやら洗面器の湯の中で手をこすっているヨハネを見てセイクレッドは首を傾げる
「さっきから何をやってるの?アライグマみたいに・・・」
そう言われて笑うと洗面器を立てかけ中に入ってくる。
「洗ってあげてた。」
そう言って開いた手には  例の指輪。
「・・・私それ部屋においてきたはずだけど。」
「え、だめだった??」
「・・・いいけどさ・・・どうせもう外れかかってるし・・・。」
そう言いながらヨハネの手の上の指輪に触れる。
とたんに光ったと思えば二人の姿が現れる。
「こんな格好で失礼。とりあえずこっちの状況説明しますね。」
おおーと声をあげるヨハネをよそにセイクレッドが説明を始める。
この村にきてオルに出逢った事。彼女に借りがあること。
ヨハネが黙って見ていたくないというから大事になってきていること。
そしてオルが現在置かれている状況。
「で・・・ここで私たちには決められない事が一つ。
彼女に・・オノエルちゃんに伝える?貴方たちの死を。」
ずっと無言のままだったレイラとウェルダンの魂の答えを静かに待つ。
先に『声』を出したのはレイラの方だった。
『いずれ・・・分かる事です。ならば真実を。そしてそれを乗り越えて生きて欲しい。
そう思うのは親の我ままですか?』
『オノエルはとても強い子です。それは親であるワシたちが一番よく知っている。
気遣いを有難う。パブテスマの聖女。』
その言葉に少し笑ってヨハネをひっぱる。
「お礼ならこっちにいってよ。私はただコレのお人よしに付き合ってあげてるだけ。
クラン員としてね。」
「にょ?にょ??」
『ありがとう・・・。ですがどうするつもりですか・・?これから。』
レイラの言葉にセイクレッドは濡れた髪をかきあげる。
「もちろん・・・・ただじゃ済まさないわよ・・・。」
セイクレッドが目を細めて笑う。そしてヨハネを見る。
「ヨハネ、部屋戻るわよ。作戦会議。その前に一つ確認しておくけど・・・。」
首を傾げるヨハネにセイクレッドは一言だけ言う。
「今回はキレるわよ、私。全力を持って。」