部屋に戻り酒の入ったグラスを左手に持ち、ペンを右手に何かを書き始めるセイクレッド。
その横からヨハネが指を指し何かを言い、そしてまたペンを走らせる。
時々、出しっぱなしになっているレイラとウェルダンに何かを尋ね、その答えに頷きながら
さらに何かを書き出し。怪しく笑うセイクレッドに苦笑を浮かべる二人にヨハネは大丈夫と笑い。
 浴場でのセイクレッドの問いにヨハネは当たり前のように
「INESS盟主、ヨハネ=スリエルとして許可します。
・・・っていうか今回はボクも許せない。人として。」
と言って話はまとまった。
やがて招かれたドワーフ二人が部屋の戸を叩いた。
「ウェルダン?!ラピス?!」
部屋に入り、宙に浮く二人の姿に宿の主人・・・・ファビオが声を上げる。
『ファビオ・・・・それにドルフさんも・・・。』
「死んで・・・いたのか・・?やはり・・・・。」
険しい顔をするドルフに二人は頷いてみせる。
『心配をかけたようだね・・・。』
「当たり前だろう?!なんてことだ・・・。」
「はい積もる話は後にして。私今日もうへろへろなのよ。血流しすぎて貧血だし。
明日の作戦考えたら寝るんだから。私寝てる間に話して。」
そう言って座ってた椅子からベッドの上にヨハネと移動して先ほど書いていた紙を指差す。
「それがおおまかな作戦。質問と文句があったら言って頂戴。」
その紙を受け取り読む二人を置いて、セイクレッドが二人の方を見る。
「・・・・で、そろそろ話してもらえないかしら?貴方たちが命狙われたワケを。
・・・まだ何か隠してるでしょ。」
セイクレッドの低トーンの言葉に二人は顔を見合わせる。
「大丈夫だよ。ここまで頭つっこんといてちょっとやそっとじゃ引く気ないし。
それに友達助けるのに覚悟決められないほど、ボクたちは苦労してきてないわけじゃない。」
もう一つの「ヨハネ」の顔で言う。横からセイクレッドが「この二重人格め」とか言ってたのはナイショ。
『ですが・・・これ以上巻き込んでは・・・。』
「やっぱりなんかあるのね。心当たり。宿屋のっとる為に二人PKとかやりすぎだものねぇ。」
ラピスの言葉にセイクレッドはこともなさげに言い放つ。
「話してください。ボクたちは、多分、見かけよりずっと強いよ。」
普段滅多に出さないもう一つの「ヨハネ」の顔。
ただ真っ直ぐに強い視線。いつもその顔でいれば恐らく「ボケ盟主」とか
「だめ盟主」とか言われる事はないだろう。
それを分かった上であえて普段はぼけぼけしているのは、
本人曰くは頭の回転上げるとそうとう疲れるらしく
同時に、隙だらけの自分に漬込まない人だけを傍に置いて置きたいから。
そんな人の為にしか自分は生きられないからと言っていた。
『Une larme diabolique・・・・という血盟をご存知ですか?』
「何語??ヨハネ知ってる?」
セイクレッドは首を傾げてヨハネを見る。
振り返ったヨハネは素直に頷く。
「少し前までのギラン城主だよ。ほら、初の税率MAXにしたって血盟。」
「あぁ・・・だめだ、専門外。税率以外自分に被害ないから把握してないわ。」
「そこがどうかしたの?」
そう言って再び二人は顔をラピスに向ける。
が、そこから先をどう話そうか迷うように目を伏せ話を続けないラピスの肩をウェルダンがそっと叩く。
『ワシから話そう。いいね?ラピス。』
その言葉に「お願い」そう小声で答えてラピスは俯いた。
『あの血盟の事をどこまでご存知かな?盟主さん。』
ヨハネはそう問われて少し考える。
「多分一般的なのしか知らないとは思うけどPK・MPK・FPK・詐欺大好き連中が集まってるのは
知ってる。」
その言葉にウェルダンは頷く。
『ラピスは・・・あの血盟から逃げてきたんですよ。』
その言葉に反応したのは協力者のドワーフ二人だ。
「な・・・・・」
「それで?というか簡単でいいから経緯を説明して欲しい。」
そう冷静に言葉を続けるヨハネ。久々にそっちの顔を見たせいか、
まかせっきりで酒を飲むセイクレッド。
『簡単な事です・・・先ほどお嬢さんが言った通り、あの血盟はそういう行動を基本としている。
それにラピスは耐え切れず逃げ出してきたんです。このドワーフ村に。』
「・・・・つまり、あの血盟の追っ手に殺されたって事?」
『恐らくは・・・・。馬が暴れだした時、ワシはラピスを守るのに必死でしたが
ラピスが見たそうです。血盟のよく見知ったアビスの姿を。』
その言葉にセイクレッドがファビオを見る。
「隣の宿屋の、あの女の名前は?」
「バレリア・・・だが。」
その答えを聞き今度はラピスに顔を向ける。
「ビンゴ?」
『・・・間違いありません。』
「なるほどね・・・・。」
口元に手を当て考えるセイクレッドにヨハネは呟く。
「・・・・ああ、分かった・・・。大体。」
「え?」
顔を上げたセイクレッドにヨハネは目を向けた。
「あの血盟はもう今はないんだよ。先々月の頭かな?の攻城でね、野良が大暴れして
城主・・・つまりあそこの盟主死んでるの。元々評判悪かった血盟だしね、
恨み持ってる人多かったし攻城登録してる血盟ただでさえ異常に多かったところに
野良が大量に流れ込んで、最終的に城主血盟VS対抗血盟+野良になったの。」
その説明にセイクレッドが首をひねる。
「あんたやけに詳しいわね・・・。」
「野良まとめてたリーダーが友達だったから。その後、血盟は解散してなんか後釜みたいな血盟作った。
ってことは、そのバレリアって女が刺客として送られてきて、おじいさん達を殺してすぐに血盟が解散。
んで報酬も貰えなくなるからって宿屋乗っ取り。どう?」
そう言ってセイクレッドを見ると少し考えてから言葉を出す。
「でもそうなるとオノエルが生かされてる理由がわからない。別に殺しちゃった方が早いじゃない。」
「うん、ボクもそこだけ分からないんだよ。ラピスさん。何か理由があるんでしょ?」
そうそっちを見るとわずかに顔を上げたラピスはチラッとファビオとドルフを見る。
それの意図に気づいてセイクレッドは立ち上がる。
「貴方たちを巻き込みたくないってさ・・・少し4人で話するから下でそれ読んでて。」
そう言うと二人は顔を見合わせたがラピスとウェルダンの表情を見て仕方ないというように立ち上がる。