キィ・・・・

ごく自然にオルの宿屋の扉を開ける。中からすぐに例の女が出てくる。
「いらっしゃいませ〜・・・・って昨日の・・・・。」
ヨハネの目つきが変わった。
「みなさーーーん。ここの宿屋の温泉はただの沸かし湯ですよー。
偽者ですー。隣の本物の温泉出てる宿に話通してあるんでー
・・・・・巻き込まれて死にたくない人はそっち言ってください☆」
唖然とする女と客たち。だが、ヨハネとその後ろにいたセイクレッドが同時にSSと
祝福SPSを入れたのに気づき言葉の意味を理解する。
「な・・・なんのつもり?!」
宿からゾロゾロ出てゆく客と交互に見ながらヨハネにつかみかかろうとする女。
が、それはヨハネが黙って向けたデスブレスソードに妨害される。
「貴方がした間違いは3つ。1つ、あんな小さい子を騙して傷つけてる事。
2つ、その子の両親を殺した事。
3つ!ボクたちの目に入る場所でそんな馬鹿な真似したこと!Esta yaiyacsee zapian!」
剣を降ろさずにマナリジェネレーションの詠唱。後ろからはセイクレッドの繰り返す
補助魔法の詠唱。
「Ishavahan hatrya lilic・・・A tall de rizahan zapian・・・・。」
詠唱を終えると左右から二刀を引き抜く。
「こ・・・殺し?証拠でもあるのかい?!あたしはただこの宿を押し付けられただけ・・・・。」
「Riken shanai gonan zapian・・・・証拠はないけど証人ならいるわよ?」
セイクレッドは二つのリングを軽く宙に投げ、それを掴みながら小さく呟く。
「『封印解除』」
再び表に出るラピスとウェルダンの霊。そして・・・・・
「おとうさん・・?おかあさん・・・・?」
騒ぎに気づき様子を見に来たオルがドアの影から小さく声を上げた。
『オノエル・・・。・・・・・・・バレリア、私は貴方に殺された。私の言葉が証拠よ・・・!』
呆然とその場を見るオノエルを気にかけているのはラピスやウェルダンだけではない。
今すぐにでもオノエルの傍に行きたいであろう気持ちを抑えてバレリアと
向き合う二人がいるのに計画を自分たちで潰すわけにはいかないヨハネとセイクレッド。
結局全ての諸悪の根源はこの女にあるわけだと、あり余した怒りがどんどん膨れあがる。
「・・・別に私らは血盟裏切りとかそんなのだけなら首突っ込んだりしなかったんだけど。
あんたは一人の大人として、人としてやりすぎたわ。」
そうセイクレッドがしぐさだけは普段どおりに・・・・が、目だけは怒った様子で言う。
「はぁ?!っていうか無関係な奴がしゃしゃり出てくるんじゃないよ!つかあんたら誰さ!」
バレリアのヒステリックな言葉にヨハネがきっぱり言い放つ。
「INESS盟主ヨハネ・スリエル!オルちゃんの友人として、貴方にケンカ売りにきた!」
「んで、私はそんな盟主に付いてきた血盟員A・・・・パブテスマのヨハネ。」
セイクレッドが笑いながら続ける。そして二人でバレリアを睨みつける。
『さぁ、覚悟はいいかい?』
その言葉に舌打ちをするとカウンターを乗り越え、手を伸ばす。
「ヨハネ、私が全部受ける。あんたは思う存分暴れなさい。殺さない程度に。」
そういうと予想通り手の届くところに隠してあったのだろうダイスダガーに気づき
セイクレッドが構える。
「って・・・セイクレッドあれB最強短剣だよ?!いくらなんでもムリだって・・・・。」
「ほら行くよ!」
セイクレッドはヨハネの言葉も聞かずに前に出る。
「あーーもうっNe valan nokian lilic!」
ソーラーフレア詠唱、もう少しでセイクレッドに届きかけた手をバレリアは引き、
ソーラーフレアも命中はせず。
そのままセイクレッドが二刀を正手で持ち、再び踏み込んできた短剣の切っ先をギリギリずらし
避ける。
「Ne varan rokia lilic!Ne varan rokia lilic!」
ひたすらハイドロブラストの詠唱を繰り替えす。
そんなヨハネの方に踏み込もうとするバレリアをセイクレッドは蹴り飛ばした。
蹴る瞬間、左肩に深く短剣が刺さったが顔色一つ変えずにセイクレッドは立つ。
「くっそ・・・・・」
立ち上がろうとするバレリアの足元から何度も続けて上がるハイドロブラストの水しぶき。
  
   カチャ・・・・

セイクレッドは左肩の傷のせいでうまく剣を握れていないことに気づき、左手の剣を離す。
「クリティカルブリード・・・珍しいOPつけてんじゃない。」
力の入らない左腕を捨てる覚悟で右手の剣を逆手に持ち直す。
  大丈夫、時間が稼げれば十分だ。ヨハネの魔法は効いてる。
  あと少し・・・あと少し耐え切ればいい・・・・!
出血の多さのせいか、わずかに視界が揺れ始めたが
それでもセイクレッドは前を見ることをやめなかった。
「ハァーーーーーー!」
    キィィィィィィィン
モータルか何かのスキルを、受け流す事が出来ずかろうじて剣で受けたが剣は真ん中から折れ、
そのまま勢いで壁に叩きつけられる。
「・・・・・っ。」
先ほどの傷を直撃は避けたがもろに響き、流石にうめく。ヨハネの詠唱の声が震えているのが聞こえた。
   別にこのくらいで死んだりしないわよ。
   盟主がこのくらいで動揺すんなっての。
   あんたはWIZなんだ、後ろから詠唱してなさい。 
   大丈夫よ、死なせないから。
   アバの詠唱速度なら、私でも持たせられる。
   『彼』のように死んでもなおってのはムリだからね。
詰められる間合いをそれでも折れた半分の剣をかまえてセイクレッドは受ける姿勢をとる。
       早く・・・もっと詠唱を早く・・・! 
       早く動けなくしなくちゃセイクレッド血出過ぎてる
       ボクのわがままに巻き込んだんだ
       絶対に死なせない
       ボクを信じて、ボクの気持ちを分かっててセイクレッドは前に出たんだ
       
      だけど傷ついてでも私たちは こんなの認められない。絶対に。