セイクレッドに迫る間合いに、とうとうヨハネが飛び出し
オーラフレアの詠唱に切り替えようとした。・・・が

「な・・・?!」
「えっ・・・・オルちゃん・・・?」
「・・・・あんた・・・・。」
バレリアの短剣は、オノエルに止められた。
しかも素手に。
低い身長の為、左腕を真っ直ぐに上に伸ばし、
バレリアの短剣をその小さな手のひらで止めている。
正確に言えば手のひらに届く寸前の位置で止まっている。
『・・・貴方は変わりませんね・・パブテスマ・・・・。いつもあの方の意思の為に無理ばかりする。
・・・・揺り篭よ、私の力好きに使いなさい。この場に飛び出した勇気を・・・認めましょう。』
オルの背中から聞こえる声。オル自身の声じゃない、その背中に在る何かの声。
恐らくはセイクレッドにしか聞こえていない。そして・・・オルにしか。
「代わるよおばちゃん。ごめんね、ありがとう。おねーちゃん!オルちゃんが止めるから」
手を止めていたヨハネがはっとする。
そんなヨハネを冷静に見るオルの顔は6歳児にはありえない顔。
ヨハネに告げるとオルは再び顔をバレリアに向ける。刺さっているわけでもないのに動かせない短剣を
必死に解こうとするバレリアにオルは静かに言った。
「・・・神様はいるんだよ。だからお前はこの二人には勝てない。」
その言葉が終わると同時に背中から何発もの連続のオーラフレアを受けた
バレリアの身体が床に崩れ落ちる。
そしてオルも手を降ろしひざをついた。
「あ・・・・ヨハネあんた・・・殺したの・・・?」
その言葉に首を振る。
「完全に動き止まってたから・・・急所は外せた。セイクレッド・・ごめん・・・。」
オルの横にペタンと座り込みセイクレッドにお粗末なヒールを使う。
「好きでやったことよ・・・気にしないで。それより・・・オノエル。」
セイクレッドは薄く笑いながらまだ呆然としているオノエルの服を引っ張る。
「悪いね・・・。」
その言葉の意味が分からないという風に見るオノエル。セイクレッドはヨハネを見てかすれ声で言う。
「ヒールいいからリング持ってきて、入り口のあたりに落としたから。」
戦闘の途中で消えてしまった二人の姿。それをなんとかしてからじゃないと
気を失うわけにはいかない。それが約束だったから。
「はい・・どうするの?」
「これだけ出血してんのよ?使わない手はないでしょ。」
そう言いながらリングを受け取り荒い息を整える。
「神聖生物の名において・・・この血を証として彼のモノたちにもう一度キセキを・・・」
こんな時の詠唱呪文なんて知らない。でも言葉は真言に、血は力に。
血だらけの手に握られた指輪が光を放つ。再び現れた二人。
その姿を確認してセイクレッドは微笑みながらゆっくり目を閉じた。



    『ありがとう・・・パブテスマの聖女・・・』