「それじゃ行ってくるわ。」
大した別れも告げずに翌朝、セイクレッドは私塾を出た。
とりあえず盟主に報告をしようとギランへと向かう。
まだ朝も早いというのににぎわう道を抜け、名品間前までたどり着きいつもヨハネのいる
木下で腰を下ろす。
「さすがにこの時間じゃここでたむろってはいないか・・・・仕方ないわね。」
そう独り言をつぶやくと目を閉じる。
おそらく今、神殿の高僧やらが近くにいたらその気に驚いて寄ってただろう。
それなりの腕を持つモノにでもその力はわかるらしく僅かにいた、
まわりの冒険者たちの視線を無視して力を集中させる。
神聖生物やってればある程度の距離があろうとも人の気配を探す事など
初歩中の初歩と言われてきた。
「いた。」
気を閉じるとざわめく周りを無視してスタスタとある方向へ向かってゆく。

カラカラン
「いらっしゃいませおはようございます〜。」
ウエイトレスの声。ギランの一角にあるレストランへと足を踏み入れる。
そして目的の人物を見つけ声をかけた。
「ヨハネ。」
「むにゅ?」
食事中のところ声をかけられて味噌汁茶碗を持ったまま振り返るまだ年若いエルフの少女。
その向かいにいる恐らくその友人だろうと思われるエルフの少年に
軽く頭を下げると少女と話しやすい位置に立つ。
「セイクレッド珍しいねぇおはよぉ。」
まだ寝ぼけている様子で紅鮭定食を食べるヨハネに変な懐かしさを覚えながら言葉を続ける。
「悪いわね、食事中に。ちょっと話あってさ。」
そう言うセイクレッドにのほほんと微笑む。
「大丈夫だよーご飯食べてるだけだしぃ〜座りなよ〜。」
そう言われて空いてる椅子に座りながら正面の少年に軽く笑いかける。
「ごめんなさいね、デートのお邪魔しちゃって?」
その言葉を聞いてヨハネが笑いながら手をふり、下を指差す。
「二人じゃないよ?」
首をかしげつつテーブルの下を覗き込むと

カリカリカリカリカリカリッ   カリカリカリ・・・・ピタ

生のにんじんを鋭い歯でかじりつくオレンジの髪を逆さにして
にんじんの形に二つに固めた青白い顔の幼女・・・・。

「で、まぁとりあえずごめんなさいね、盟主に報告しておきたいことがあったの。」
セイクレッドは見ないことにした。
「ヨハさんのクラン員?」
「ええ、クレリックのヨハネス=パブテスマよ。知り合いはセイクレッドって呼んでるわ。」
「あ、ども、シェンムーです。」
慌てて名前を名乗る少年に微笑んでからヨハネへと向き直る。
「それでヨハネ。私しばらく私塾にはいないから、それを連絡しにきたのよ。」
その言葉に首をかしげる。
「にゅ?どっか行ってくるの〜?」
「最初はエルモアへ。そこからしばらくあちこち行く事になると思う。」
「転職ですか?」
「ええ、まぁね。」
その少年の言葉に微笑み答える。
「・・・・えるもあ?」
ヨハネが言葉に反応して食事の手を止めテーブルの隅においやられていた雑誌に手を伸ばす。
「どうしたの?」
そしてあるページを見つけるとニヤァ〜っとにやける。
「な・・・・何よ。」
その顔にひきつるセイクレッドにヨハネは満面の笑顔で言う。
「セイクレッド♪一緒に行っていい〜?☆」
「は?」
ぽかんとしたセイクレッドにその雑誌のあるページを見せる。
「これ!さっきシェンくんと一緒に見てて行きたいと思ってたの!」
そのページは何やらドワ村の宿の紹介ページの様だった。
雑誌を受け取りそれを見る。
「ドワーフ村新名物・・・・滝温泉・・・・?効能:美肌・肩こり・腰痛・・・・・って・・。」
「えへへへ〜♪温泉好き〜^−^」
そのにやけた顔を見てため息をつく。
「あんた・・・アデンはなれて大丈夫なの・・・?」
一応盟主なんだからと呆れるセイクレッドにヨハネは笑う。
「へーきへーき♪ほら、普段から何もしてない盟主だしぃ。うさーうさー。」
机の下をのぞきこみ声をかけると、食事を終えたらしく口を拭き拭きして顔色も戻った
普通のドワーフの少女が出てくる。
「ナニニ?」
「あのさーお兄ちゃんにしばらくヨハちん旅に出るから
INESS任せた(はぁと って伝えてくれるぅ?」
「うんうん。」
首をコクコク縦に振るウサの頭をなでながらヨハネは
「よろしくねぇ〜^−^」
とのん気な言葉を吐く。
「既についてくる事決定されてるのね・・・。」
頭を抑えるセイクレッドを覗き込みヨハネは見つめる。
「だめぇ?」
「・・・いいわよ。でも宿は自腹で。」
仕方ないわねといった様子で了承すると大げさに喜んでみせる。
「わーい!シェンくんお土産買ってくるねぇ〜」
横でキャイキャイ始まった3人を見ながら軽くため息をつく。
そんな事をいいながらその実結局は心配されてて、
それでついてこようとしてることくらいはセイクレッドでもわかる。
でなければこの女が血盟を副盟主に任せてエルモアまでついてくるなんて
言い出すわけもない。
「先に・・・・アデン大陸とオーク村の試練だけ終わらせてくるわ。
夕方グルーディオで会いましょう。」
それだけ言うと店を出る。自分にWWをかけて走りながらやれやれと苦笑を浮かべた。