「だから!お願いだからレベル考えずに前衛しようとするのやめてってば!」
「うっさいなぁ・・・あんたが前に出ると詠唱キャンセルされて全く役に立たないでしょうが。」
「そういう問題じゃないっしょ?!いっつも言ってるじゃん!目の前で誰か死ぬのはもう
嫌なんだってば!」
「死なない自信があるからやってんのよ。」
「そんな大怪我しといて全っ然説得力ない!!!!」
私と自分の荷物を持ちぎゃーぎゃー騒ぐヨハネを横目にしれっと言いながら
船の柱によりかかる。
「あーもう分かったわよ・・・。転職したら重装備着てとっととレベル追いつけばいいんでしょ!」
そう言いながら荷物を指でよこせと合図する。
「だーかーら〜〜どうしてそっちの方向に行くかな?!」
そう怒りながら二人分の荷物をセイクレッドの横に下ろすと正面から
ビシっと指を指しセイクレッドに言う。
「INESS盟主、ヨハネ・エルデ・スリエルとして言います!
盟主絶対命令です!!セイクレッドは前衛しちゃダメ!!!!!」
「無理。」
そう珍しくかっこよくキメたヨハネをちらっと横目で見て片腕で荷物の中の酒のビンを取り出す。
「怪我治るまでお酒飲むのも禁止!!!!!」
「それこそ無理。」
「じゃ怪我治るまでタバコき・・・」
「殺す気?無理無理。却下。」
片手で機用にフタを開けて「うぐ〜〜〜」とにらむヨハネを笑いつつ飲む。

あれから、ドワーフ村のエルダーに怪我を見てもらったものの、
57レベルのエルダーではとても回復出来る怪我ではないと言われ、
セイクレッドの目が覚めたらアデン地域にいるヨハネの友人のビショに診てもらう
予定でいたらしいのだが、結局セイクレッドは
「クエスト続行。片腕でもなんとかなるだろうしその後で」
などと無茶な事を言い出し、あげく必死で止めるヨハネを完全に無視。
仕方なく、ヨハネは電報で副盟主の眠る猫を呼び出し、
一旦クエストの為にギランに戻ったセイクレッドが私塾に着替えを取りに行っている間に
事情を話してオノエルを預け、そのまま船で話せる島へ向かうセイクレッドに
くっついてきたのだ。
『オルちゃん、コノ人うちの副盟主だから心配しなくていいからね。
お兄ちゃん、悪いんだけどボクたちギラン戻るまでオルちゃんの事お願い。
うさとかくじらちゃんとかいるから大丈夫だよね?』
『・・・それはいいですけど・・・兎から一昨日聞いたばっかりなのに
展開速すぎて・・・。』
『それはいつも!気づいたら血盟員増えてるのはINESSのデフォルトじゃん。お願いね?』
『・・・はい。分かりました。それじゃオノエルちゃん、INESSのメンバー紹介するから行こうか・・・。』
『はぁい!』

「・・・・猫くんヨハネには弱いからなぁ・・・・。可哀想に・・・。」
「ボクのが年上だもん♪それにお兄ちゃんは誰にでも優しいよ?」
「・・・そのツラで下から上目遣いで小首傾げて『お兄ちゃんお願い(はぁと)』って反則技、
素でやってのけるあんたが信じられないわ私は・・・。」
「にゅ??」
とりあえずちょこんとセイクレッドの横に正座で座るヨハネ。
「・・・・・んで?島にカーディナルなんて本当にいるの?」
酒を飲みつつ尋ねる。
ヨハネが同行してきたもうひとつの理由が「話せる島なら知り合いのカーディナルさんいるから。」
だった。ビショップからの3次転職であるカーディナルはまだアデンでは数が少ない事は
セイクレッドでも知っている事だった。セイクレッドの実の母(現パブテスマの当主)リリスでさえ
『高レベルビショップ』で止まっていたし。それより高位の回復職が島にいるというのは
正直納得がいかなかった。
そもそもあのプライドのやたら高いリリスがそれをよく思うとも思えない。
「いるよーいるよー。ボクが島いた時最後にお世話になってたおうちの人なんだけどね。」
「そういえば・・・あんた島で何箇所か転々としてたって言ってたけど・・・。」
そう言うと少し困った顔で答える。
「うん、最初アインハザードの神殿にいたんだけど、その後魔法学校の先生に引き取られて
そこで・・・ちょといろいろあってね。その後神殿に戻って、その後そのおばちゃんの家に
お世話になってたの。」
「・・・?その前は?言いたくないならいいんだけど。」
そう聞くと首を傾げる。
「その前??」
「あんた捨て子か何かだったの?」
「んー神殿の職員さんが海岸で拾ったって言ってたんだけど・・・。」
そう言ってから少し考えるそぶりを見せ、ヨハネは笑った。

「実はボク、自分の事はあんまりよく知らないんだよね。」