「間もなく話せる島に到着します。忘れ物のなきようお願いいたします。」
その船員の言葉が聞こえるとヨハネがスルメを咥えたまま身を乗り出す。
「うわぁ〜〜〜島だぁっセイクレッド!エルピー見えるよエルピー!」
苦笑しつつ酒のビンだのいかくんだのをバックにしまう。
「エルピーねぇ・・・そういやいつの間にかグルーディンいなくなったわね。」
「島名物と言ったらエルピーってカンジだね♪」
「それ絶対違う。」
はしゃぐヨハネに手を出され、大人しくバックを預ける。
「とりあえず真っ直ぐおばちゃんとこ向かおうか?お手紙出しておいたから
すぐ診てくれると思う。」
「んーそうねぇ・・・。うん。案内よろしく。」
「うん!」
船から降り、二人分の荷物を抱えて歩くヨハネについて歩く。
10数年ぶりの話せる島。
実家から脱走してから一度も帰ってこなかった生まれ故郷は
かなり記憶が薄れていたが風や、虫の音で少しづつ懐かしさを感じる。
「ここは相変わらず万年セミ鳴いてるのねぇ・・・。」
そんな事を思う。
「セイクレッドがいた頃もずっと夏だったの?」
「ええ。アデン渡った頃そんなに感じなかったけど。こっち暑いわ・・・。」
「あははは、海風でむしむししてるしね。」
そんな話をしながら素直にヨハネの後をついていたがセイクレッドは目の前に見えたものを見て
ピタっと足を止めた。
「?どしたの?セイクレッド?」
「・・・・ちょっと待て・・・・。まさか・・・?」
「みゅ?」
振り返り、また「何かしました」な笑顔で首を傾げるヨハネに投げるモノを持っていない事を
悔やんだ。
「あんた・・・・。」
「にゅ?にゅ?」
それでもぼけたフリをやめないヨハネを前に一歩後ずさりきびすを返して
船着場まで走ろうかとした時。ヨハネが声を上げた。
「クリスさん捕獲ぅっ!」
「はぁっ?!」
突然、いつからいたのか後ろからオークの男に片腕をつかまれ、ウエストを抱えられ
片腕の動かないセイクレッドは暴れるにも暴れられず。
後ろから腕をつかまれたまま顔を上に向ける。
「・・・久しぶり、姉さん。ヨハネちゃんも元気そうだね。」
わずかに昔の面影を残した逞しいその男の言葉を聞き、すぐに誰だかは思い出せた。
「な・・・・な・・・・?!」
唖然として暴れる事すら忘れるセイクレッドを尻目に目の前に見える家に向かって
ヨハネは声をあげた。
「おばちゃーんおばちゃーんただいま〜〜〜〜」
やがて開いたドアの向こうに立つ女性ヒューマン。
セイクレッドがビショになる事を強要していたあの人。
プライドだけはやたら高く、いつも何考えてるのか分からない
嫌悪・・・いや、畏怖と裏腹に、その毅然とした物腰にどこか尊敬していたあの人。
「・・・・お母様。」
記憶より随分老いた、あの頃と変わらない神服をまとった母を見て固まる。
そりゃそうだ。この人がビショになれっていうのを振り切る為に
行方眩まして10数年フラフラしていたのだから。
どうする。どんな顔で話せばいい。というか期待裏切った私を認めるような
女じゃないだろうこの人。ヨハネの奴、全部知ってやがったな。
そんな考えをめぐらせても答えは出ず。
その間にもヨハネはテロテロと母、リリスへと歩み寄る。
「おかえりなさい、ヨハネちゃん。少し痩せたかしら?」
「うん〜ちょっと〜。約束、守ったよ。」
そう言ってリリスに笑う。リリスは微笑み顔を上げ、
今だセイクレッドを抱えたままの息子に声をかけた。
「クリス、もう離してやりなさい。話は中で。その前に腕の治療をしなければいけませんね。」
リリスの言葉に素直に従いセイクレッドを離し、そっとクリスはその背を押す。
「貴方も入りなさい。ヨハネス。そして・・・おかえりなさい。」

「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
重苦しい沈黙。出されたお茶にも手をつけずに大人しく座っている
ヨハネ、クリス、セイクレッド。やがて奥の部屋から着替えてスタッフを持って出てきた
リリスがセイクレッドの横の椅子を引く。
長いスカートに加工されたメジャーアルカナローブ。そしてアルカナメイス。
どちらもSグレードの装備。
「そんなに気を張らないで。クリス、手を貸しなさい。ヨハネスの腕持っていて。」
そう言いながら少しためらってからヨハネスの包帯を解きにかかる。
どんな顔をしていいかも分からず言われるままに体の向きを変えうつむいたまま
されるがままになる。
「・・・これはひどいわ。何をしたの?」
そう、穏やかに言うリリスにどもりながらも答える。
「いや・・・・58のアビスとやり合ってモータルだかデッドリーブローだか食らった・・。」
「相変わらず無茶しているわね。しっかり持っていて、クリス。」
「はい。」
クリスに腕を支えさせ、リリスは一歩下がりメイスを目の前に構える。
「ブリードの効果も残っているみたいだからバイタライズとリザレクション。」