治療が終わり、再び着替えに戻ったリリスと。
相変わらず無言のまま腕を動かしているセイクレッド。
空気の重さにオロオロするクリスに
緊張するのが疲れたのかのん気に紅茶を飲むヨハネ。
やがて、セイクレッドが口を開いた。
「あんた・・・全部知ってたのね・・ヨハネ。」
その言葉に少しとまどってからヨハネは答える。
「うん・・・・でも知ってるの言ったら絶対怒ると思って黙ってた・・・。」
「・・・そりゃ怒るわよ。なんなのよこの展開。」
殺気立つセイクレッドにクリスがなだめるように声を上げる。
「姉さん、ヨハネちゃんを責めちゃだめだよ・・・。」
「大体クリス、あんたもなんで島にいるわけ?お父様みたいなデストになるって
張り切ってたのはどこの誰さ?]
「昨日お母様から姉さんが帰ってくるってアジトに手紙来たから里帰り・・・・。」
10数年会ってないとはいえ、相変わらず怖い姉にびびりつつでかい
デストロイヤーは肩を縮める。
「っつーか今思い出した、あんた同じ船乗ってたじゃない。」
『今気づいたの?!』
ヨハネとクリスの声がはもる。
「まさか弟が同じ船乗ってるなんて思いもしないわよ。っていうかヨハネ
こんな真似して覚悟できてんでしょうね。」
そう睨まれてヨハネが「う・・」という顔をした時。扉が開きリリスが戻ってきた。
「私が頼んだのよヨハネス。責めるなら彼女ではなくこの私を責めなさい。」
そう穏やかな表情のまま凛とした空気をまとい、静かに自分の分の紅茶を入れる。
「・・・・私、ビショにならないわよ。パブテスマも継がない。今プロフの転クエ中だし。」
そう、やけになったセイクレッドが言うとリリスは笑った。
「えぇ。ヨハネちゃんから聞いているわ。私は貴方が重症だって聞いて、そしてクエストで
この島に来ると聞いて治療の為に連れてくるように言ったの。」
そう言いながらセイクレッドの隣に座る。
「・・・クリスさん、ちょとお散歩してこよう!」
「あ、うん!いくいく。」
「え・・ちょとあんたら・・・」
「じゃセイクレッドまた後でね~~」
あっという間に逃げ出した二人に呆然としているとリリスが笑い出した。
「ふふ・・・いい盟主じゃない。楽しいでしょう?」
そう言われ目を合わせずにセイクレッドは答えた。
「・・・疲れるわよ。いつもいつも。って私があいつの血盟員だって事も?」
「ええ。聞いてるわ。半年に一度くらい手紙をもらっていたから。
・・・そうだわ。少し待っていて。貴方に買っておいた物があるの。」
「は?」
そう言いながら台所の下を開け、何かを出し、そして手ごろなグラスと一緒に机に置く。
「貴方の好きな物はウォッカ。そう聞いたから。どうぞ?」
そう言われ目の前に置かれた、父のよく飲んでいたウォッカのビンを見つめる。
「・・・・ここまでされる理由が分からない。私は貴方から逃げ出したのよ。」
その言葉にリリスは少しの間を起き、穏やかに口を開いた。
「その事が・・・・本当は話したかったの。ヨハネス。その為にいつか、貴方を私の元へ連れてきて欲しいと
ヨハネちゃんが島を出る時に頼んだのよ。」
出された酒に手もつけずに首を傾げる。

「ごめんなさいね、ヨハネス。貴方の気持ちも考えずにいた私を許して頂戴。」

その言葉に唖然とする。このプライドの高いリリスが自分に頭を下げた。
自分に謝罪の言葉を投げた。
「な・・・・・」
言葉の出ないセイクレッドに顔も上げずにリリスは続けた。
「貴方が消えて・・・・連絡がつかなくなってから。私なりに考えたのよ。
そしてやっと気づいた。自分がいかに「名前」や「外見」にとらわれて本質を見失っていたかを。」
何も返せずにセイクレッドは黙って聞いている。こんな弱気な言葉を、彼女から聞いた事は記憶の
どこにもなかった。
「私の子供たちの中でヒューマンの外見を持って生まれたのは貴方だけ。
パブテスマはヒューマンの血族だからと、貴方を次の当主にする事ばかり考えていたわ。
貴方は頭もよく、古代語にも長けていた。私よりよほど強いパブテスマの力を持っていた。」
「・・・それはたまたま・・・・。」
そうかろうじて言葉を出したセイクレッドにうなずく。
「ええ。そうね。たまたまだったのよね。私はそれに全く気づかず・・・ただの反抗期だと思っていたの。
愚かよね。そしてそれに気づいた頃には貴方の行方は全く掴めなくなっていたわ。」
そう言いながら顔を上げる。その目に光る涙を見てセイクレッドは再び固まった。
「パブテスマの前に私は一人の母親。貴方が元気でいてくれればそれ以上の幸せはなかったのに。」
「・・・・変わったわね・・・・。」
他に言う言葉が見つからずセイクレッドは戸惑ったまま呟いた。
「変わった・・・そうかも知れないわ。貴方がこの家を出てから随分時間が経っているもの。
私ももうこんな年だし。・・・おかえりなさい。ヨハネス。」
そう言われてセイクレッドが動いた。
「・・・いい年して娘の前で泣かないでよ。お母様。・・・・ただいま。」
そうハンカチを差し出す。その手をとり、リリスはしばらく、涙を止められなかった。