「・・・・・うまくいったみたいだね☆よかったよかった。」
そう言いながら並んでドアに耳を貼り付け中を伺うデストロイヤーに笑ってみせる。
「本当によかったよ〜。イロイロと・・・。」
「ボクたちぼこされるとこだったもんねぇ。」
のん気に言うヨハネと二人、クリスは深い溜め息を落とす。
「これからどうしよっか?このまま戻ったら絶対立ち聞きしてたのばれるよ。」
クリスの言葉に村の方を指差す。
「ダーナさん迎えに行こうよっそろそろお仕事終わる時間でしょ?」
「そうしよっか?」
そう言いながら二人は村へと歩き出す。
現在表向きでパブテスマの当主を名乗る「ダーナ・パブテスマ」
セイクレッドの末の弟を迎えに。

「ダーナ!足速すぎるから!」
「ダーナさん〜〜そんなに急がなくてももう逃げたりしないってばぁ」
「お母様俺には何も教えてくれなかったんだよっ今朝だって家出る時
何も言ってなかったのにっ。」
「すみませんお二人とも、うちの人手に余るシスコンなもので・・・。」
「ナターシャ!余計な事は言わなくていい!」

「・・・何か外騒がしくない?」
ようやく落ち着いたリリスと他愛のない話をしながら茶をすすっていると
セイクレッドは顔を上げて首をかしげた。
「そうね・・・そろそろダーナたちが帰ってくる時間だけれど・・・。」

バンっ

「姉さん!!!!」
そう息を切らせて神服の帽子を片手に持ったオークの青年が入ってくる。
これが、セイクレッドの10歳年下の下の弟、ダーナである。
セイクレッドが家を出る時まだ7歳にならなかった弟の成長した姿を見てセイクレッドはホーと言葉をこぼす。
「大きくなったわねぇ・・・・。」
そう呟いたあたりでその後ろから3人が飛び込んできた。
「ダーナさんずるい・・・WW2で猛ダッシュって・・・・。」
「シルレンのナタリアさんならともかく僕たち辛いって・・・。」
「お二人とも〜大丈夫ですかぁ〜?」
「・・・・えーと?」
そう、ヨハネとクリスはともかく、ゼィゼィ言ってる二人の背中をさするエルフには見覚えがなく
首を傾げるとエルフは向き直り頭を下げた。
「ダーナの妻のナタリアと申しますぅ。お姉様の事は主人から常々。どうぞ、ナターシャとお呼びください。」
「えっあぁ、こちらこそ。弟がお世話になってます。ヨハネス・パブテスマです。」
「姉さん!今までどこで何やってたの?!怪我ない?!」
暴走しまくるダーナ夫妻を見る余裕もないクリスとヨハネ。そして「あらあら」と言いながら二人に
水を入れるリリスと。
10数年という歳月の長さを思い知るセイクレッド。
そして、やっとセイクレッドが笑った。
「ぶ・・・・・・あっはははははは、ダーナ、かわいい奥さんもらったのねぇ。
落ち着きがないあんたにはぴったりだわっ。」
「ダントツで落ち着きがないのは姉さんだと・・・。」
「クリス〜?何か言った〜?」
「・・・なんでもないです。」
「姉さん見てっ俺今神官やってるんだよ!サブクラスでビショとってやっと当主やってんのっ。」
「へぇ〜、子供の頃から優秀だったものね。ダーナは。度胸もあったし。」
「当たり前だろ?姉さんの弟だぜ?俺。」
「とにかく着替えてらっしゃいダーナ。ヨハネス、今夜は泊まっていきなさい。
もちろんヨハネちゃんも。」
「いいの?悪いわね。」
リリスの提案に笑顔で頷きまだ騒ぐパブテスマ一家をのん気にヨハネは眺めている。


「やっぱり、家族はこうでなくっちゃ♪」








「ヨハネちゃん、ちょっといいかしら?」
食事が済みセイクレッドがお風呂に入りに行くと、片づけをしていたリリスが
口を開いた。
「にゅ?どうしたのおばちゃん?」
湯上りで髪を束ねたヨハネがテーブルを拭いていた手を止めて首を傾げると
リリスはひそひそと尋ねる。
「・・・大丈夫?」
「ほえ?」
「その・・・ヨハネスはあの性格でしょう?しかも随分過激になってるみたいだし・・・。
あとでケンカとかになっちゃったりしないかしら?」
リリスが言っているのがヨハネが強引にセイクレッドを連れてきた事で
キレルんじゃないかという事なのは漠然と理解できた。
「大丈夫だよぉ、セイクレッドなんだかんだで優しいし・・・・多分・・・。」
そう答えながらも若干ヨハネはびびってた。
実際、数時間前に本気で怒っていたわけだし。
「セイクレッド・・・・それにしてもよくその呼び方をヨハネスが認めたわね。」
「にゅ?普通に勝手にしろって言われたよ?」
そう言うとクリスは笑う。
「セイクレッドは神聖の意味・・・自分が神聖生物であるという事を
誰よりも嫌がっていたのに。」
そう零すリリスにヨハネは笑う。
「セイクレッドは神聖生物が嫌だったんじゃないよ。自分の事は自分で決めたかっただけ。
おばちゃんの事も嫌ってたわけじゃない。」
「・・・ありがとう、ヨハネちゃん。」
「ボクはボクのしたい事をしてるだけ。はいっ片付けおしまいっ」
そう言ってヨハネはまた笑った。
そこへ
「風呂、あいたわよ。」
そう言いながらセイクレッドが出てきた。
「あら、それじゃぁ私も入らせてもらおうかしら。」
リリスの言葉に
「片付けは?」
と聞き、もうない事を確認すると酒のビンを持ち、
玄関へと向かう。
「・・・・・・」
その後姿を見ていたヨハネだが、少ししてから深く息を吐き、気合を入れ
セイクレッドの後を追って庭へと向かう。

「まだあったのね・・・ブランコ」
そう呟き、庭の古ぼけたブランコに座り、ビンを傾けボーっとしていると
後ろに気配を感じた。
「・・・出てきなさいよ、ヨハネ。」
「う・・・・」
おそるおそる出てくるヨハネにセイクレッドは思わず笑い続ける。
「どうした?」
その言葉にヨハネは言いずらそうに近寄ってきた。
「あの・・・あのね、セイクレッド・・・・怒ってる?」
昼間あれだけ強引に人を連れてきておいて今更しょげているヨハネが
おかしくて仕方なかった。
「何のことかしら?」
わざととぼけてやればさらにしょげて
「えと・・・騙してここ連れて来た事・・・とか、おばちゃんと知り合いだったの
黙ってた事とか・・・。」
「カーディナルなのは本当なわけだし騙してはいないでしょう。」
「・・・・許してくれる?」
「仕方ないわね。」
そう言うとほっとしたように笑顔を零した。
「でもさ、家族っていいね。」
唐突に言われ、セイクレッドは首を傾げる。
「あんたもここ住んでたんでしょ?だったら家族じゃない。」
その言葉に複雑な顔で笑顔を向けた。
「うんーおばちゃんもそういってくれるんだけどねぇ。
ボクはオークは混ざってないと思うんだ。」
「・・・・論点はそこかい・・・。」