翌朝。
「あんた本当に一緒に来るの?腕も治ったし私一人でも大丈夫よ。」
転職クエの為、遺跡に向かうセイクレッドの後ろを歩きついてくるヨハネに
そう伝えると
「ボクも久々だから行きたいの〜。邪魔はしないってばぁ」
言いながらキョロキョロと懐かしそうに周りを見る。
・・・と
「・・・?」
急にヨハネが足を止めた。
「どうしたの?」
「え、ああ、うん。なんでもない・・・。」
少し訝しげな顔をしてそう答えたヨハネだが、気のせいみたいと笑って
再び遺跡への道を歩き始めた。
が、また足を止めてそれにセイクレッドも立ち止まった。
遺跡はもう見えている。
「ヨハネ・・・?」
振り返ったヨハネの顔つきにわずかにセイクレッドが戸惑った。
  誰だこいつは
「こっちよ。パブテスマ。」
そう言って笑い・・・いや、微笑み、遺跡のわずか左の方へと歩き出したヨハネに
『何か』が憑いている、血のせいか直感的に感じたセイクレッドが動いた。
「・・・・・・・・」
非常用の短剣をヨハネの首元に当て、低い声で囁く。
「・・・あんた・・・・誰・・・?うちのボケ盟主じゃないわね・・・?」
「・・・・・・・・・・・」
振り返らないまま、視線だけ背後から短剣を突きつけるセイクレッドへと向ける。
「私の前でうちの盟主に憑くなんていい度胸してるじゃない・・・。何者。
事と次第によっちゃ今すぐ消すわよ。」
そう囁くセイクレッドにヨハネに入った「何か」が微笑む。
「どうして違うと?」
「ヨハネはそんなまともな言葉使わないわ。それにパブテスマなんて呼び方絶対しない。
私をどこに連れて行こうとした?」
早口で言い、相手の出方を伺う。
「・・・なるほど。その武器を収めなさいパブテスマ。私は敵ではありません。」
「どうだか。それに命令口調なのもムカツク。」
「やはり・・・覚えてはいないのですね。私の事を。」
その言葉にさらにセイクレッドの目つきが険しくなる。
「なんの事よ。」
「・・・無理もありません・・・・ね。パブテスマの末裔よ。
知りたくはありませんか、自分の血筋の真実を。」
そう言いながらセイクレッドの突きつけた短剣に触れる。
「な・・・何をした?!」
セイクレッドが珍しく動揺を表に出した。感覚もあるし、しゃべる事も出来る。
だけどこれは間違いなく「麻痺」のスキル。
スペルシンガーのヨハネの体を使って部分的に残した
詠唱なしの麻痺スキル。
「誤解しないでください。私の話を聞いてもらう為です。」
そう言いながら一歩前に出てから振り返る。
「私の名はスリエル。かつて貴方の祖先が友と呼んだ者。」
動けないまま見つめるセイクレッドに指を一本立てると一気に力が抜け
セイクレッドが膝をついた。
「ス・・・リエル・・?」
見上げるセイクレッドの頭には、ずっと古い記憶のはずが何故かあの歴史が
真っ先に浮かんだ。
「私と一緒に来てくださいパブテスマの末裔よ。
貴方は知らなければならない。貴方の血の歴史、世界の真実、そして」
勝てる相手じゃないと悟り、静かに立ちあがるセイクレッドに『スリエル』は告げる。
「貴方が盟主と呼ぶこの者の事を。」

「・・・・・」
「・・・・・」
勝てない+ヨハネをほったらかしにするわけにいかないので
仕方なく前を歩くヨハネの体の後を歩く。
遺跡の入り口には入らずその左の崖に手を当てるとゴソゴソと何かを探すように
手を動かす『スリエル』の様子を黙って見ているとふいに振り返り
「パブテスマ。ここに貴方の血を。この場所はかつて
貴方の祖先が閉じた道への入り口。私では開ける事は出来ない。」
その言葉に考え込む。
ひょっとして私は騙されてるんじゃないか?
言うとおりにしたらヤバイのとか出てくるんじゃないのか?
そんな事を考えているとそれを見透かしたように微笑み
「ここはただのある場所への入り口。警戒する必要はありません。」
と言うが信用していいものか考える。
それも完全に見抜かれ、『スリエル』は言い方を変えた。
「この先に進まないのならばこの体は返しませんよ。」
こんな言われ方をされたらほっとくわけにもいかない。
いらつきながらも短剣を指に滑らせた。
「・・・・これでいいんでしょ。」
そう言いながらその指を『スリエル』が指す場所へとつける。

「な・・・何がおきた・・・?」
瞬きをするよりもっと一瞬の出来事だった。
何も感じる暇もなく真っ白な場所にいる自分に
セイクレッドは呆然とする。
「侵入防止の為です。ここは白の時間。パブテスマと
エルデの名を持つ者しか入れません。」
そう言いながら真っ直ぐに歩き始める。
「・・・一体ここは・・・・。というか腹くくってやるから説明して。
一体あんたは私に何をさせようとしている?」
その後ろを歩きながら言うセイクレッドに微笑む。
「何もしなくて構いません。ただ、貴方は知っておくべきだと思っただけです。
貴方は私にたどり着いた。それには必ず意味があるのですから。」
そう言いながら踏み込んだ場所は古い教会のような場所だった。
「ここは・・・・。」
見た覚えがある。いや、そんな気がする。
そう、私は知っている。この場所もあの道も・・・そしてこの『スリエル』も。
「ずっと、待っていたんです。パブテスマ、オノエルの揺り籠、そしてスリエルの破片。」
そう言って微笑んだ瞬間、『スリエル』がヨハネから離れた。
「ヨハネっ」
崩れる体をなんとか受け止め、脈が正常なのを確認して顔を上げる。
目の前にあるのは台の上の球体。
その球体が囁いた。
『神聖生物・・・やっと・・・やっと見つけてくれた。』
その言葉に首を傾げる。・・・・が。
『ヤルダバオト。』
球体の呟いた名にあの歴史書の著者の名前を思い出した。
アイホバンド魔法学校で幼い頃、侵入してまで見たあの歴史書。
『失われた歴史』『エルデ・スリエル』『ヤルダバオト・パブテスマ』
そこまで思い出した時、頭の隅で声が聞こえた気がした。