外に出ると、もう日は暮れヨハネを背負い直して実家への道を歩く。
虫の声と木々のこすれる音しか聞こえない静かな夜の闇は
考えを堂々巡りさせるには十分すぎて。
「私とオノエルなら・・・か。」
そう溜め息をつくと背中のヨハネが声を上げた。
「ごめんね、セイクレッド。巻き込んで。」
その言葉に顔を向けると苦笑を浮かべたヨハネの姿。
「大丈夫、歩けるよ。降ろして。」
そっと降ろすと軽くスカートを叩き、困ったように笑って見せる。
「・・・・あんた、全部聞いてたの?」
「途中から・・・ね。まさかボクが神様の力で出来てるなんて思ってなかった。」
そう言ってうつむく。しばらくの沈黙の後、ヨハネは顔を上げた。
「セイクレッド。見捨てるなら今のうちだよ。これ以上・・・こんなボクの人生に付き合う必要ない。」
「何言ってるのあんた・・・。」
「ボクがボクである為にはセイクレッドのパブテスマの力とオノエルの揺り籠の力を
時折取り込まないといけない。揺り籠のオノエルは意思のみで出来るけどセイクレッドの力は
血の洗礼が必要になる。その度に痛い想いしなきゃいけなくなる。」
「・・・だから?」
「常日頃から流血してるセイクレッドが定期洗礼までしようとしたら血からっぽになっちゃうよ。
だから・・・見捨てて。ボクを・・・・。」
「・・・・・」
恐らく泣いているんだろうヨハネの姿をしばらく見て、そして溜め息をつく。
「ボクろくな盟主じゃないしセイクレッドに迷惑ばっかりかけてるし・・・いい機会だし
見捨ててくれてい・・・・・ぐはっ」
最後まで言い終わる前にセイクレッドの左ハイキックが顔に入りよろめいてから
地面につっぷす。
「い・・・・痛いっナニするの?!」
「うちのアホ盟主があんまりアホ過ぎる発言したから鉄拳でツッコミ。」
「アホって何?!人が真面目に話してるのにっ」
「そんなコト真面目に言うあたりでアホよ。アホっていうかバカ?」
「なっなっ。」
「私はねぇ。スリエルとか知ったこっちゃないし。自分の血筋にもそんなに興味なんてないわ。
あんたは私をパブテスマとしてじゃなくヨハネスとして受け入れてくれた。
その事にどれだけ私があの時救われたかあんた分かってないわ。」
当たり前のように言い、髪をかきあげ、そして笑う。
「私はあんたがあんただからついてきてるの。こんな事、離れる理由になんてならないわ。」
「でもまた迷惑を・・・」
「はっ迷惑?暇つぶしには丁度いいわよ。っていうかあんた血盟員なめてない?」
「なめてなんか・・・。」
「絶対なめてる。あんたいつも血盟員は自分が護るーーーって言ってるけどさ、
そんなん私だって同じ。盟主にも血盟員にも命張るわよ。言っておくけど
あんたに拒否権ないからね。」
ポカーンとして見上げるヨハネにそこまで言ってから手を差し伸べる。
「私にはお父様の熱いオークの血も流れてるの。忘れてない?血のちょっとやそっとで
盟主護れるなら安いもんだわ。あんたがあんたなら、それが護る理由になる」
「セイクレッド・・・。」
「ほら、帰るわよ?お母様たちが待ってる。・・・・ま、そんなに気にするならコノ後の転職も
手伝ってもらおうかしら?行くよ、INESS盟主、ヨハネ・エルデ・スリエル。」
「・・・・うんっ」
泣きながら笑い、しがみつくヨハネの頭をくしゃくしゃ撫でてその手を引く。






  『本当によいのですか』
  『ええ。自分で決めた事です。』
  『私は・・・貴方に出逢えた事を心より誇りに思います。』
  『それは私も同じよ。再び目覚めの時が来て、それが例え何年後でも
  貴方の事は決して忘れたりなどしません。パブテスマ。』
  『いつか目覚めの時がくるまで私はこの名を守り続けましょう。
  そして願わくば私の子孫が貴方の護人とならんことを・・・・・・』

『ヤルダバオト・・・本当に貴方の子孫は貴方に似ている。・・・私の護人にはなりそうにありませんが・・・。
ですが、私も見守ろうと思います・・・。彼女の未来を。』



「っていうか顔腫れてるわね・・・。」
「セイクレッドが蹴ったんじゃん!」
「受身くらいは取ると思ったンだけど。」
「あの状況で取れないよぅ・・・あぁ痛い・・・。」
「お母様に治療してもらえば?」
「なんで人事なのセイクレッド・・・・。」