「お待たせ。」
「あ、せいくれっどー」
グルーディオに着くと神殿の階段に腰を下ろしているヨハネを見つけるのに
大して苦労はしなかった。
「よいしょっと。」
立ち上がってよろけるヨハネの腕を掴み支えると、その冷たさに驚いた。
「あんた何時間こんなとこ座ってたのよ;。」
「んー3時間くらいかなぁ・・・・・。」
時計を見て言うヨハネに少し頭を押さえる。
「この時間そんなに外でじっとしてたら寒いでしょう;」
そう呆れるセイクレッドの言葉に少し苦笑しながら少し遠い目をする。
「ちょっと、昔のコト思い出してた。」
そう寂しげに言うヨハネの言葉の意味を漠然と理解して、
それ以上追及するのはやめておいた。ヨハネがこの顔をする時は
『彼』の事を思い出している時だけだから。
「行くわよ、今日中にドワ村入って宿だけ確保してクエストは明日からでいいわ。」
「わーい温泉温泉〜」
そうムリにテンションをあげようとはしゃいで見せるヨハネの頭をこずいてGKへと向かう。
アデナを払い、次の瞬間には雪に覆われた全体的に建物の低いドワーフの村についていた。


「さて・・・どうする?食事してから宿探すか宿見つけてそこで済ませるか・・・・。」
「じゃん!」
「は?」
バックの中から昼間見ていた雑誌を取り出すと角を折ってあるページを開く。
「あー・・・?」
それを見てから奴の顔を見るとまた『ニヤァ〜』という表情を浮かべている。
【獲れたての新鮮な魚介を使ったディナーがお勧め】
ヨハネの開いたページにはそう書かれている。
「・・・・・これ地図ついてる?」
「はい!」
次は地図の書いてあるページを開く。店の名前の位置を確認して、歩きだすと後ろから
とろとろとついてくる。
「あんた生魚好きよね・・・。」
「うん?寒いトコはお魚さんおいしくていいよねぇ〜」
そうのん気に話ながら歩くとふいにヨハネがドワーフにぶつかり、ぶつかった相手がよろけた。
「危ないっ。」
そう、よろけたドワーフが肩に抱えていた荷物を後ろから右腕で支え、開いた手でその体を立て直してやると
横で「ぴぎゃっ」という奇声と共に雪に埋もれるヨハネの姿。
「・・・・・はぁ。」
そうため息をつきドワーフの体を離すと左手でヨハネのローブを掴み立ち上がらせる。
「・・・ちべたい。」
そう半べそで言うヨハネに簡潔に応える。
「そりゃ雪だもの。」
「・・・鼻イタイ。」
「もとはと言えばヨハネが前ちゃんと見て歩かないのが悪いわ。」
「でも突き飛ばさなくても・・・・。」
そう鼻をさすりながらローブの雪を払うヨハネに呆れたように言う。
「ダレがいつ突き飛ばした。」
「・・・・・むにゅ?」
「・・・・・悪かったわね、怪我ない?」
ヨハネをとりあえずおいておいてきょとんとしているドワーフの少女を向き直る。
「・・・・。」
ドワーフは無言のままセイクレッドが抱えたままの荷物に手を伸ばす。
「あ、はいはい、ちゃんと返すわ。」
受け取ると少女は何事もなかったかの様にすたすたと歩きだす。
「待ってっ待ってっ」
髪を直したヨハネが立ち去ろうとするドワーフを呼び止める。
不審そうな目をむけて振り返る少女の手からひょいっと荷物を取り上げる。
「あーやっぱり〜。」
身長差の為取替えせずにバタバタと暴れるドワーフの少女をヨハネは見下ろす。
「返しなさいよ・・・ヨハネ・・・・。」
その意味不明の行動に呆れつつ促すとドワーフの少女ににっこりと笑いかけ
ヨハネは歩きだす。
「ぶつかっちゃったお詫び〜。運ぶの手伝うよ〜。どこ行くの〜?」
そう言いながらニコニコ笑いかけると少女は不審感全開な目を向ける。
「これ重いねぇ〜。セイクレッドが持った時腕の筋肉張ってるの見えたから〜。
君一人でこれ運ぶの大変でしょ〜?他にも荷物あるんだしー。」
「あんたそんなとこ見てる余裕あったら前見て歩きなさいよ・・・・・。
まぁ確かに子供が持つ重さじゃなかったわね。」
ようやくヨハネの行動の意味を理解したセイクレッドはまだバタバタと暴れる
ドワーフの頭に手を乗せる。
「大丈夫よ、こいつ悪意ってもの持ってないから。そっちも貸しなさい。
私も持つわ。」
その言葉にドワーフが不審そうにしていた顔を崩し、今度は不思議そうな顔を向ける。
「どうせあとは宿と夕食くらいしか予定ないから運ぶの手伝うわ。ほら。」
そう両手を差し出すセイクレッドとその後ろでニコニコ笑いながらうなずくヨハネを
交互に見てから、ドワーフは持っていたもう二つの袋の片方をセイクレッドに差し出した。
「ん・・・・そっちのが重そう。そっち貸しな。」
荷物を取替え、わずかにセイクレッドの顔が険しくなる。
「あんた・・・その体で持つ重さじゃないわよこれ・・・。」
ドワーフは答えない。ただ、二人の顔をもう一度見てから何度も振り返りながら進み始めた。
「みゅー?」
「ついてこいってコトでしょ。行くよ。」
首をかしげたヨハネを促し少女の後ろをテクテクと着いていく。
しばらく歩いてどこかの裏口で少女は荷物を降ろし振り返った。
「あ、ここでいいのかな?」
ヨハネの言葉に少女はコクリとうなずいて手を出す。
「はーい。ご苦労さまぁ。」
荷物を渡し終えるとずっと無言だったドワーフが小声でしゃべった。
「お姉ちゃんたち宿探してるの?」
二人は顔を見合わせてからうなずく。
「うん〜滝温泉入りにきたの〜。」
その言葉を聴き、うつむいたまままた小さい声で言う。
「今、本物は予約いっぱいだよ。」
「え〜〜〜〜〜〜〜」
(本物・・・・?)
その一言に露骨に残念がるヨハネと言葉の意味をとっさに悟るセイクレッド。
そして少しの間をおいてから少女は荷物をおいたまま顔を上げる。
「ここの表の左隣。いって。」
「?」
首を傾げる二人をよそに、少女は少し焦った様子で続ける。
「早く。」
その様子を見て、二人は素直に従って歩き出す。
後ろを振り返ると少女は荷物を置いた裏口の隣の家の裏口の戸を叩いていた。
若干気にはなったもののいわれた通りその宿屋らしき建物の戸を開けると
「いらっしゃいませ〜すみません、今日はもういっぱいで・・・・」
そこの奥さんらしき人に言われる。と、後ろから急いで出てきた
前掛けをかけたドワーフが間に入った。
「この二人はいいんだ、奥の二人部屋シーツ換えれば大丈夫だろう。
少し待っててもらえますかな?」
明らかに修羅場な忙しさで奥さんはムリだと言わんばかりに顔を向ける。
「あんた、予約ない客泊めるわけいかないだろう。」
「オルちゃんに頼まれたんだ、黄色のローブのヒューマンと
黒ローブの3本剣さしたエルフってのはお客さんたちのコトでしょう?」
そういわれて二人は自分たちの装備を見る。
「あぁ・・オルちゃんの頼みじゃ仕方ないねぇ・・・ここは任せるよ、換えてくるわ。」
そう苦笑しながら奥さんらしき人は中へ入っていった。
「オルって・・・さっきのドワーフの子?」
「しか、ないでしょうね。頼まれたって?」
そうドワーフに尋ねると急がしそうに台帳を開きながら書くように促される。
「さっきオルちゃんが裏口から来てねぇ、
お客さんたちを泊めてやって欲しいって頼まれたのですわ。
はい、結構です。妻が戻るまでもう少しこちらでお待ちください。」
書き終えるとそれを机の下にしまう。
「あんたが残念そうな顔めいいっぱいするから哀れまれたのかもねぇ・・・」
セイクレッドはそうジトっとした顔をヨハネに向ける。
「みゅぅ・・・ごめん・・・・。」
そう凹むヨハネを見てドワーフは笑った。
「そんなことで頼みごとをするような娘じゃないよオルちゃんは。
お客さんたちあの娘に何かしてやったりとかしたんじゃないかい?」
手を止めずに言うその言葉に心当たりは一つしかない。
「・・・でも荷物運ぶの手伝っただけだよ?ボクたち・・・。ねぇ?セイクレッド?」
「そうね。別に暇だっただけだし。」
その言葉を聞いてドワーフは尋ねる。
「オルちゃんお礼言わなかったろ?」
よくよく考えると確かにいわれてはいない。というかこの二人は礼を期待する前に
侘びのつもりだったんだから最初からそんなの頭においてなかった。
「そういう子なんだ、オルちゃんは・・・借りは返すというか・・・
昔はもっと明るかったんだけどねぇ・・・。」
そう言葉をにごらせる。それを追求しようとした時、奥さんが戻ってきた。
「お待たせしました、部屋に案内しますよ〜。」
そのあわただしい様子に話を諦め部屋へと素直に案内される。
「すみませんが食事は外でお願いできますか?手いっぱいなもので。」
その言葉に大喜びで部屋のベッドにダイブするヨハネをおいといて
セイクレッドはチップを渡しながら答える。
「あ、もちろんです。突然なのにありがとうございます。」
「温泉の女湯はフロントの右奥になってます。
混浴の露天風呂は左奥の通路の先です。夜中でしたらまず人はいなんで
よろしかったらご利用ください。」
「やた〜!露天風呂〜〜〜〜!!」