とりあえず荷物を置き、食事へと出かける。
運良く宿屋からさほど離れていなかった。
「くはぁ〜おなかいぱーい♪」
「その細っこい体のどこにあれだけ入るのやら・・・・。」
いつもどおりの大食いをやらかして幸せそうな顔のヨハネの隣を歩きながら
セイクレッドはしっかり買い込んできた酒とタバコを抱えて歩く。
私塾に住み込んでから、禁酒禁煙生活を送っていたがここぞとばかりに
へそくりを使いこむ。
「さすがに月出てないねぇ」
そう言うヨハネに笑う。
「月出る以前に雪降ってきそう。早く戻りましょう。」
そう言いながら足を速めるセイクレッドの腕をヨハネが掴んだ。
「?・・・セイクレッド待って。」
「あ?」
突然立ち止まり細い路地を見つめるヨハネ。
「どうし・・・」
「シッ。」
人差し指を口元に出し言葉をさえぎる。
「・・・?」
首をかしげつつヨハネの見る方向を見る。
そこには昼間のドワーフの少女の姿があった。
「・・・・何あれ。」
「セイクレッド声聞こえる?この位置から」
あたりは雪の為静かではあるがさすがにこの距離ではよく聞こえない。
オルと呼ばれた少女とその向かいでなにやら叫んでいるDEの女。
「流石に聞こえない・・・。あのDEがシリエルだのハウラじゃないこと祈ってて。
出来るだけ抑えるけど。」
「お願い。」
荷物をヨハネに預け目を閉じ、指を二本立てる。
神聖生物は人より魂に近い術を多く覚える。その技のうちの一つを詠唱に入る。
力を抑えて、風の精霊と炎の精霊の力を借りる魔法。
欠点としてその周囲の空気が若干震えてしまうのだが
この距離でこれに気づくレベルの術者でなければセイクレッドの勝ちだ。
「大丈夫、気づかれてないよ。」
ヨハネの言葉にうなずく。
音が聞こえないのなら聞こえる位置まで意を飛ばしてしまえばいい。
風と炎をベースの陽炎。その中に自分の意を混ぜてその場の状況を見る
遠見のシンプル盤な技。
ただそれだけの事だがやるのは実際かなりの精神力を消耗する。
何より、力をかなり抑えないと存在として目視できる状態になってしまうのが難しい。


『なんだいその目は!』
見上げる少女。その少女に怒鳴りつける女。
『・・・・・・・』
『全くっ本当に使えない奴だよ、さっさと薪割りしてきな!飯抜きにするよ!』
『・・・・・・』
『・・・・・』
その瞬間不服そうにでも動き始めた少女の足に女の足が故意にかけられ、少女は雪に顔を落とした。

「やばっ」
それと同時にセイクレッドの気も揺らぎ、慌てて意を解く。
一瞬でも間違いなくセイクレッドの意はあの女に見られたはずだ。
「セイクレッドっ」
その様子は建物の影からあちらを伺っていたヨハネにもしっかり目視できた。
同時に女がきょろきょろと周りを見回す様子も。
「逃げるよ・・・!」
小声で言うとセイクレッドはダッシュで足跡の多い場所を選び走り出す。
それについて走りだしたヨハネはふいに振り返り
「Ne Balan nonnliare lilic」
力を抑えたフレイムストライクを隠れていた場所の地面へと放ち、雪を溶かし足跡を消して後を追う。

「はぁ・・・・だ、大丈夫?セイクレッド・・・。」
「こんな距離で息切らしてるあんたに心配されたくないわ。」
慌てて宿のロビーへと飛び込み、扉を背にしたままセイクレッドは答える。
せきこみながら息を切らすヨハネと対象的にわずかに肩をゆらすのみのセイクレッド。
ひとしきり酸素を吸い込んでからヨハネが尋ねる。
「あはは、それで?あの女何?」
「悪いわね、そこまで力持たせられなかったわ・・・・・。暴走するかと思った。」
そう応えてから舌打ちをして自分の手を見る。
気のせいだと思いたいが年を重ねるごとに自分の力の制御が
出来なくなってきていることを目の当たりにして
内心はかなりの焦りを抱えていたが、ヨハネの言葉が現実に引き戻す。
「とりあえず落ち着こう?ボク何か飲み物もらってくるよ」
そう言いながらヨハネはカウンタに身を乗り出す。
「もう宿屋の人寝ちゃったかなぁ・・・。」
「ん?あんたたち今戻ってきたのかい?」
片づけをしていたらしい夕方のドワーフが顔を見せた。
「えへへへへ〜ちょっと寄り道してたの〜」
そう笑うヨハネの後ろからいいタイミングだとばかりに
セイクレッドが割って入る。
「おっちゃんもう仕事終わるの?」
その言葉にドワーフはクビを傾げる。
「あとはロビーの掃除だけじゃが・・・・。」
「モップと雑巾どこ?手伝うわ。
その代わり少し私達の話しに付き合ってほしいんだけど?」
そう言いながらヨハネに持たせたままの荷物から酒のビンをちらつかせる。
「・・・・?」
「あのオルって子のこと。詳しく話して欲しいの。」
不審そうな顔を向けるドワーフにヨハネと二人で真剣な顔を向ける。
「・・・・・入ってきなさい。掃除用具はこっちじゃ。」
ヨハネとセイクレッドは顔を見合わせて「よっしゃ」と顔を崩す。