「それじゃぁお姉ちゃん盟主さんなの?」
ようやく普通に話すようになったオルとあちこちの店を見ながら話す。
洋服店はサイズ的にムリという事で現在は魔法抵抗とは無関係の
小さなアクセサリーを覗いている。
「うん、よく『ありえない!』とか言われるけど一応盟主だよ〜。」
そう言いながら綺麗な石のついたネックレスを当てて鏡を見る。
「でも・・盟主さんってもっと怖い人ばっかりかと思ってた。」
そんなヨハネを見上げながら穏やかな表情で言うオルの前に屈みこみ、
今度はオルの首元に当ててみる。
「結構いろんな人いるよ〜。戦争やるわけじゃない盟主になるだけなら
誰でもなれるしね。あ、似合うかも、買う?」
その言葉にオルは首を横に振る。
「せっかく今日の記念にーと思ったんだけど・・・まだボクの事信用できないかなぁ。」
そう困ったように言うヨハネにオルは再び首を横に振る。
「お姉ちゃんの事はもう平気。でもあんまり甘えちゃだめだと思うし・・・それに。」
「それに?」
首を傾げるヨハネにシャツの中からチェーンを出す。
その先には一つのリング。
「オルちゃんにはこれがあるから。お姉ちゃんは仲良しだから特別見せてあげる。」
そう言いながら首にかけたまま差し出す。
「へぇ〜〜〜あ、名前彫ってある。ラピス・・・ウェルダン・・・」
「お父さんとお母さんの名前。二人の持ってるのにはオルちゃんの名前が彫ってあるの。
オルちゃんたちが家族だって約束なんだよ。」
そう笑うオルを
ヨハネは抱きしめた。
「お姉ちゃん?」
「・・・ステキだね。すごく、ステキだね。ステキなお父さんとお母さんだね・・・・・!」
「・・・・・・・」
その背中をオルはぽんぽんと叩いた。
「・・大丈夫だよ、お姉ちゃん。お父さんたちはちょっと忙しいだけだよ。」
腕を解くヨハネの顔を覗き込んでオルは気丈に笑った。
「知ってるんでしょ?だからオルちゃんと遊んでくれてるんだよね?
でも大丈夫。オルちゃんがいい子にしてればすぐ帰ってくるんだよ。」
  この子は・・・幼くても強くて・・・そして賢くて・・・優しい。
  きっとボクよりずっと・・・・。
「・・・・何してるのヨハネ・・・・。」
いろいろ考えてるところに上から声が降ってくる。
「あ・・・・セイクレッド。」
その姿に慌ててオルはネックレスをしまいこむ。
そこにある指輪をセイクレッドは見逃さなかった。
「それが・・・ご両親との指輪?」
セイクレッドの言葉に警戒心丸出しで下からにらみつける。
「あっオルちゃんこのおばちゃんは大丈夫、ボクの血盟の人でね、
見た目こんなんだけどすごく優しいんだよ、ちょっとアル中だけど。」
そう言うヨハネの顔をまた無言で見つめるオル。その頭をなでて
「おばちゃんって・・・見た目こんなんって・・・アル中って・・・・
私まだ31なんだけど・・・・。」
と引きつりながら言うとヨハネは当たり前のように言う。
「だってオルちゃん6歳だよ?」
「・・・・・・・おばさんか・・・このくらいの娘いてもいい年だもんな・・・・
驚かせてごめんね。私はヨハネス・パブテスマ。血盟INESS所属のクレリックよ。」
諦めるように笑ってから言うと少し戸惑った様子を見せてからペコリと頭を下げる。
「おのえる・じょはん・おるでぃうす・おるふぇうす ですっ。」
「名前ながっ!」
「ちょっと待て・・・あんたは名前も聞かずに一緒に遊んでたのか・・・・。」
セイクレッドのため息にヨハネはえへへへへ〜と笑う。
「セイクレッド、クエスト終わったの?一緒にご飯行かない?」
その誘いをセイクレッドはやんわり断った。
「いや、ちょっと他にやりたい事できたから。オルちゃん、一つだけお願いがあるんだけど。」
そう下着が見えるのもかまわずかがむ。
「さっきの指輪、もう一度見せてくれないかしら。貴方のご両親を探すのに必要なの。」
「セイクレッド?!」
「・・・・・お父さんたち探してくれるの?」
そう顔を上げる。その顔は、複雑な顔をしている。期待、不安、そして悲しみ。
「私を・・・私たちを信じてくれるのなら、絶対に会わせてあげるわ。
約束する。その為にその指輪をもう一度見たいの。」
セイクレッドはそれが残酷な事になるという事も分かった上で言った。
そしてヨハネは、この賢い子がセイクレッドの言葉で両親の死に気づく事を恐れた。
「・・・・お姉ちゃんの血盟の人なんだよね、おばちゃんは。」
「ええ。そうよ。」
「・・・お姉ちゃんの事好き?」
その質問にセイクレッドは言葉を詰まらせる。
「えっあーう〜ん・・・・・・改めて聞かれるとなぁ・・・・・嫌いなら一緒にいないけど・・・
好き・・・好き・・・・そっちの趣味ないんだけど・・・・。」
そう考えるセイクレッドに横からヨハネがつっこむ。
「セイクレッド多分それ質問の意味違う・・・っていうかその反応傷つくよ・・・。」
「あ、そうよね。うん。盟主としてはどうだか微妙だけど友達としては好きよ。」
その言葉にオルが反応するより先にヨハネがいじけ始める。
「盟主としては微妙・・・・。」
その言葉を聞いてか聞かずか、オルが顔を緩ませた。
「オルちゃんもお姉ちゃん好き。いいよ、はい。」
そう再びネックレスを取り出す。
指輪に軽く触りセイクレッドは静かに息を吐き、目を閉じた。
わずかな間、そうしていたかと思うと目を開き、微笑む。そしてオルの頭をなでた。
「ありがとう。それじゃまた会いましょうオノエルちゃん。ヨハネ、夕方までには宿屋に戻るわ。
食事済ませておいて。」
そう言うとヨハネの返事を待たずにセイクレッドは店を飛び出した。
「セイクレッドどこいく・・・・の・・・・って行っちゃったよ・・・・・。」
「・・・・あのおばちゃん普通の人と違う。」
「え?」
「分からないけど・・・違う。」


飛び出したセイクレッドは人目につかない雪山の道外れに出た。
あたりを見回し、人の気配がない事を確認するとひざにつけている護身用
(という名の便利道具)のナイフを出す。
そしてミスリルローブの上を脱ぎ近くの木にかける。
「さっむっ」
雪山の中でキャミでいたらそりゃ寒いわと突っ込む人もいないので
そのまま深呼吸をしてから
自分の腕に軽くナイフを滑らした。
「・・・・・・・・・・・」
そしてそこから出血した血が雪を赤く染める。
もう一度大きく息を吸い、目を閉じる。
 制御が利かなくなり始めてる私に出来るか  
 出来なければ私に出来る事がなくなる
 力を貸すと言った以上
  絶対にやってやる


パブテスマの名において、神の意を紡ぎし者よ、我声に応えよ。
血は力となり、古き盟約を証明する・・・!