終わりの始まり

「ねぇヨハネちゃん」

「ん?」

狩りのMP回復中に隣に座るラザ君が少し低い声で呼びかけてきた。

レベルも上がり、この頃は荒地でのペアが多くなっていた。

「もし・・・僕がいなくなったらまた新しい相方探さなくちゃいけないよね?」

その言葉にあたしは過剰に反応する。

「えぇ?!ラザくん隠居するの?!」

そう言ったあたしに少し笑ってみせた。

「違うよ。もしも・・・の話。」

今思えば彼は感じ取ってたのかもしれない。これから自分に起きる出来事を。

善神アインハザードの力を借りる「クレリック」という職業。あたしのようなWIZ

職にはわからない信託か何かがあってもおかしくはないのだから。

「ヤダ」

そう短く言ったあたしに目を丸くする。

「え・・・ヤダって?」

「相方はラザくんだったから相方なの。相方にラザくんを選んだんじゃなくて

ラザ君だったから相方って決めたの。」

そうきっぱりと言ったあたしに顔を赤くしながらも少し悲しげに微笑んだ。

「そっか・・・少し照れるね。」

その悲しげな表情に気づきながら・・・追求しなかった事を後でどれだけ悔やんだ事だろう。

「どっかいっちゃうの?」

そう真剣にたずねたあたしに彼はまたさびしげに微笑んだ。

「ん・・・例えば・・・だよ。この世界はいつ誰が死んでもおかしくないしね。」

言われてみればそうだった。怪しげなモンスターがわんさかいて、通り魔強盗当たり前。

あげく地竜アンタラス復活の噂まであるこのアデン大陸で生き延びる方が難しいわけだし。

「ラザ君よりあたしのほうが先に死ぬと思うけどなぁ・・・」

あたしがそう言うと立ち上がりながらあたしに背を向けて

「ヨハネちゃんは僕が守るよ」

そう静かに言った。

「むぅ。あたしがラザくんを守るんだよ〜〜〜。」

言いながらあたしも立ち上がる。振り返ったラザ君はいつもの表情に戻っていた。

いつものやさしい笑い方で

「大丈夫。その分ヨハネちゃんには戦ってもらうから。」

そう言って彼は二刀を掲げて補助魔法の詠唱に入った。

 

そのやり取りがあった前後・・・彼はあたしといない日が少しづつ増えていた事も

これから起こる事態を予想する鍵になっていたのに、あたしは「寂しいなぁ」とか

「恋人でもできたか?!」とかしか考えていなかった。その理由に全く気づかないまま

その日から数日がすぎて・・・一人の時間にも慣れ始めた頃。久しぶりにグルーディオで
島時代の友人に偶然街で会った。

「ぼちゅ〜〜〜〜〜」

そう後ろから言われて思わず振り返る。あたしをそんな呼び方する人なんてあの人しかいない。

「キリちゃん久しぶり〜」

島時代に野良PTで眠くてテンション高い時にPTLして・・・思いっきり調子ずいてた時に
知り合ったエルフ萌えナイト職のキリードさんだ。その時にふざけてで「ボス」とあたしを
呼んでから定着されてしまったようで今でもそういう呼び方をされる。・・・もう慣れたけど。

「聞いてよぼちゅ〜〜〜」

そう突然半泣きで言われて何が起きたと思いつつとりあえず近い酒場に入り話を聞いてみる事に。