ーINESS−

「どしたの?」

ジンジャーエールを飲みつつキリちゃんにウイスキーの水割りを作りつつ尋ねると
泣き上戸全開で話し始めた。

「キリが実家の手伝いしてる間にクラン員が0になってたぁあぁぁぁぁぁ!!!」

最初はなんの事かさっぱりだった。盟主やってるっていうのは聞いた事はあったし
実家の手伝いで大工をしながらナイトをやってるのも知ってたけどいきなり
こんな言い方されてわかるわけもない。

「キリが・・・キリが長耳村(エルフ村の事らしい)まで出張して長耳お姉さま(エルフ女性の事らしい)
のおうちを直しに行って二週間留守にしてる間に
(嵐で壊れた家の修繕に行ってたらしい)
だ〜〜〜〜れもいなくなってたのぉぉぉぉぉぉぉ
(号泣)

 周りの客の目など見えていないのだろう。そう言ってテーブルにつっぷしてワンワンと泣いている。
どうしたもんかと考えつつ状況を整理する。どうやら出張から帰って血盟登録所で確認したら
クラン員が誰もいなくなってたという事らしい。

「誰もって・・・連絡もつかないの?」

「一人・・・友達としてだけはかろうじて・・・・」

しゃくりあげつつ言ってまた泣き出す。あたしは蛙のから揚げを食べつつその様子を見ていたが
ふとあることを思いついた。ただしこの時は冗談でしかなかったわけだけど。

「んー・・・・じゃぁさ、あたしがクラン作ろうか?そしたら仕事忙しくても除籍しないし

安心していられる?」

言った途端がばっと勢いよく顔を上げる。

「本当?!入れてくれるの?!」

まさか食いついてくるとは思ってなかったから思わずうろたえる。

「う・・・・うん・・・・。」

「本当に本当に本当?!」

その笑顔を見てその時深く考えずに決めた。

「じゃぁさ、クラン員増やさなくていいから細々とちっちゃい血盟作ろうか。」

そういいながら真っ先に考えたのは「相方入らないかな?」だったことはこの時
キリちゃんには話さなかった。

「名前どするのぼちゅ?」

「・・・・酢昆布愛好会?」

完全に泣き上戸から脱出したキリちゃんの問いにそう答えると軽く固まっていた。

「いや・・・冗談よ?」

そう言ったあたしに深くため息をつく。

「ぼちゅ相変わらず酢昆布好きなのね・・・・」

「最近ギランで売ってくれる人見つけたからね。食べる?バッグにまだいっぱいあるよ?」

思いっきり首を横に振って拒否られる。

「名前か・・・・・。考えておくよ。しばらくは仕事ないんでしょ?」

その言うとまた涙を浮かべたのでしまったと思った。

「明日から話せる島で新築の仕事が。。。。」

そう言ってまた泣き始める。

「いつ頃帰ってくるかわかる?」

「再来週にはなんとしても帰ってくる!日曜日!いい加減キリだって長耳お姉さまを守る為に
修行したい〜〜〜」

苦笑しながら約束をかわす。

「じゃぁ再来週の日曜、ディオでふらふらしてるよ。その時加入登録しよう。
立ち上げの申請は明日にはしておくから。これる?」

「絶対いく!」

 

 

酒場を出るともう外は真っ暗だった。グルーディオにはいきつけの宿がなかったので
小さな炎の明かりを頼りにディオンまで歩き始めた。
満月の光で炎がなくても見えたような気はしたけど一応用心にと指先に炎を浮かべる。

「月・・・・・か・・・・。」

そう見上げてつぶやく。真っ先に思い出したのは荒地でラザ君と見た満月と昔聞いた事のある神話。

「月の女神・・・イネス・・・・・・これだ。」

次の日の朝、早起きをしてディオンの神殿まで血盟登録の申請に行った。

「血盟名と盟主名をこちらに記入して。」

そう渡された紙に汚いけど丁寧に書く。

   『INESS  −ヨハネ・スリエル−』

イネスはスペルだとこう。こう書くと別の民族の言葉で「アイネス」とも読む。
その意味は「異なる個人として違う内世界を持って共に存在すること」。
なんとなく好きな言葉だったから。
このときは・・・・集まっても五人くらいなんだろうと思っていた。