近づく運命の日

申請を出して、そのままディオに戻る。この時間なら多分あそこにいるはずだと彼を探しに走る。

「ラザくん!」

ディオの教会にやっぱりいた。

「あ、ごめん邪魔しちゃった?」

ヒューマンの神官マヌエルさんと話中だったところに声をかけてしまって会釈をして
ラザ君に問うと首をよこに振り、笑ってから手を上に掲げた。

Riki shana Gonoa(風の精霊よ盟約の言葉持て)  Ziepiane(その守りを)

風が集まる。あたしの足元にその風がまとわりつき、顔を上げるとにっこりと彼は笑った。

「上位WW覚えてたところだったんだ。もう終わったよ。」

そう言って神官に頭を下げあたしの手をつかみ神殿を出ようとするとふと神官は彼を止めた。

「ラザよ。気をつけるのだぞ。」

ふりかえったラザ君はあたしのしらない顔をしていた。

「・・・またあいつの話?」

話についていけずただあたしは彼らの話を聞いていた。

「昨日うちの神官の一人がこの村の北へ走って行くところを見かけたと、そう話していた。

しばらくはあまり村から出ない方が懸命だぞ。」

「・・・・・」

こんなに険しい顔をするところは見たことがなかった。
いつも余裕な表情を崩す事のなかったラザ君が深刻に・・・
どこか殺意をもった顔をしていた。少しの沈黙の後彼は口を開いた。

「・・・本土に来たときからあいつと戦う覚悟はできてる。」

それだけ言ってあたしの手を引いて外に出る。神官は何かを言いかけて止め、十字を切る。

 

「ちょと待ってラザくんどこいくの〜〜〜」

引っ張られながらわめくとやっと気づいたと言う様に手を離した。

「あ ごめん」

「大丈夫?」

そう顔を覗き込んだあたしに目を丸くする。

「え?」

「なんか苦しそうな顔してるよ。それにさっきの話・・・・。」

少し考え込む顔をしてからあたしの頭をなでた。

「今は何も聞かないで。いつか・・話すから。」

その言葉にうなずいて笑って見せた。

「話したくない事なら話さなくていいよ。でも苦しいなら・・・・少しあたしに甘えてね?」

そういうと彼も笑い返した。

「あ、で、ボクを探してたんじゃないの?どしたの?」

「あ、あのね、クラン作ったの。」

そう言うとまた目を丸くする。

「えぇ?」

「だからね、クラン作ったの。」

「また突然だね・・・」

苦笑しながら適当なカフェに入る。考えたら朝食も食べずにディオンから走ってきて、
もうお昼時だった。

 

「でね、ラザくん入ってね。」

いきなり提案ではなく決定の言い方で言うと釜揚げ蕎麦を食べていた手を止めた。

「決定なんだ?」

そう笑い出す。

「だってラザ君いないとやだもん。」

そう、いけしゃーしゃーと言うと大して困った様子も見せずに再び食べ始める。

「いいけど・・・一週間は無理かも。」

そう思い出した様に言われてきょとんとする。

「どして??」

「まだ島にいた頃ね、リグって覚えてるでしょ?あの人とふざけて作った血盟、
脱退申請出してないから。それが済んだらいいよ。」

そう言ってお茶のおかわりを頼む。

「抜けて大丈夫なの?」

「うん、あの人今アデンで庭師してるし。ヨハネちゃんと会ってすぐ位に引退したの。」

「へー・・・」

そういいながら食べ終わったとろろ蕎麦のお皿を重ねる。そして

「じゃぁ脱退申請出してくるよ。一緒にいく?」

「いくーーーーー。」

 

書類を出した後、一緒に狩りにいこうと誘ったが・・・珍しく断られた。

「大丈夫、嫌いになったとかじゃないよ。」

思いっきり不安を丸出しにしたあたしに笑いかける。

「ただ・・・さっき神官も言ってたでしょ?村から出るなって。

それにちょっと一人で片付けなくちゃ行けないこともあるからね。」

そううつむき加減に言う彼に

「ついてったら邪魔?」

と聞くと

「ヨハネちゃんには知られたくないかな。だから片付けたいんだ。」

そう苦笑されてそれ以上何もいえなかった。落ち込んだあたしに彼は
少し考えてから約束をとりつけた。

「血盟加入、来週できるから・・・・どこかで待ち合わせようか?」

「うん・・・・。」

「どこがいい?」

「ん・・・・・。」

まだしょぼくれてるあたしに少し困った顔をする。聞きたくて、聞けなくて。さびしくて。

「ふむ・・・よし。あそこにしよう。」

そういわれて顔を上げる。

「来週・・・・水無月21日、エルフ村で会おう。」

「エルフ村?なんで???」

「前に一緒に行った時に休んでた場所あるでしょ?南門のトコ。あそこにしよう。

日が落ちるまでに行くから待っててくれるかな?」

「うん・・・。」

「そんな顔しないで?」

そういいながらあたしの髪をなでる。

「ボクの事、信用できないかな。」

「信じてるよ!」

間髪いれずに言うあたしに微笑みかけた。

「じゃ、約束だね。来週会おう。迷子にならないでね?」

そういつもの様に言うラザ君にあたしもいつもの様にむくれて答える。

「大丈夫だよ〜あの場所は絶対迷わない〜〜」

 

 

それから1週間はあっという間にすぎた。

毎日死にそうになりつつ必死になっていれば時間の流れは早いもので。

そしてあたしは

約束の日の朝、ディオン城の村を出た。