『ボクの代わりに君を守るよ』

「センティネルこっちです!」

そう叫ぶ男性。その指す方向からは多くの悲鳴が聞こえる。

「逃げろ!早く村へ逃げ込め!!!」

「相手は弓だ!!!走れ!!!!」

種族村の通り魔。ある意味よくある事ではあるが、まだきていないラザ君の事が気に

かかり、門の近くまで歩み寄る。

「あ・・・さっきの・・・」

弓を絞り、まだ若いエルフを狙うシルバーレンジャー。

その顔は確かにここに来る前にすれ違ったあの男だった。

「やばい・・・」

やっぱり考えなしなあたしは、センティネルに混じり魔法を詠唱しようとした。

・・・が。

「レイザー!!!!!!」

よく見知った人の、聞いた事のない怒りの声。シルレンの耳にもその声は届き、

迷わずその方向へと弓を向ける。

「ラザ君?!」

その声の主の名を叫ぶ。が、彼はあたしを見ずに真っ直ぐにシルレンへと二本の

剣を握り締めて踏み込んだ。

無言で弓を放つシルバーレンジャー。

その矢は彼の左肩に刺さり、彼は顔をゆがめる。

「だめ!!ラザ君逃げて!!!!」

そう叫び飛び出そうとしたあたしの腕を周りの人がつかみ、止める。

その間にも数本の矢が彼に刺さり、シルバーレンジャーにも

センティネルの矢が数本かすめた。

捕まれた腕を必死で振り払い駆け出した時には

シルバーレンジャーの腹部には二本の剣が。

そしてそれを引き抜いた大切な人の体には

7本の矢が大量の血と共に 夕暮れの赤を受けていた。

「貴様・・・」

「お前の思い通りにはさせない・・・!」

そう言いながらふらつき剣を引きずり下がる彼に、シルレンは弓を構えたが

その体に一斉にセンティネルの矢が放たれる。

その様子を見ずにヨタヨタと彼はあたしの方へと歩いてきた。

「ごめん、少し・・・遅れちゃったね・・・・。」

後ろで倒れ、沈黙したシルレンをわずかに振り返り、そのまま彼も

力をなくした。

「ラザ君?!待ってて、今エルダさん呼ぶから・・・!」

そう受け止めた彼を地面へと置こうとすると、彼はあたしの腕を掴み止めた。

「自分の事は・・自分がよくわかってるよ・・・・。」

そうなだめるように微笑み言う。それが死を予告している事を漠然と理解して

あたしはどうしたらいいかわからなくなっていた。

「あいつね、ちょっと許せなかったんだ。色々あって。でもちょっと無茶だったね・・・。」

そう言いながら苦笑する。その間にも、あたしの膝や、手や、そして地面に血が広がって

いく。駆けつけた神殿のエルダが何度もグレーターヒールを繰り返す。

その光の中で彼はわずかに首を振りあたしの方を向き直った。

「ヨハネちゃん、ごめんね・・・。」

なぜ彼が謝るのか、わからなかった。

「ボクはもう守ってあげられないから」

視点の合わなくなり始めた目であたしを見つめて

握ったままの二本の剣を自分の胸元へと引き寄せる。

『そんなの嫌だよ』

そう思ってももう、あたしは言葉すら出せなかった。

「これをボクだと思ってね・・・・」

『無理言わないでよ』

「ずっとこれでヨハネちゃんと戦った・・・いつも・・・これで・・・

ヨハネちゃん・・・を・・・守って・・・・た」

『あたしが守りたかった、君を守れる強さが欲しかった』

途切れ途切れで苦しそうな息をしながらの彼の言葉に何も言えなくて

あたしはただ、首を横に振るしかできなかった。

彼はうつろな目で何かを思うように目を閉じ、そして

影も曇りもない真っ直ぐな笑顔であたしに微笑んだ。

 

「この剣がボクの代わりに君を守るよ」

 

 

「ラ・・・・ザ・・・君・・・?」

もう動かない彼の体をそっと揺する。

後ろにいたエルダはもう詠唱を止めていて、

神官たちと顔を見合わせて首を横に振っていた。

「ラザ君・・・?」

あたしは、その現実を受け入れられず彼の名前を呼び続けた。