転職についての話も確かに彼とした事もある。

「ねぇラザ君は転職どうするの??」

「ボクプロフィットになりたいんだよね。前から決めてたんだけど。」

「ぷろふぃっと???」

当時のあたしに二次職の名前なんかわかるわけもなく、

頭の上に20個くらい「?」を浮かべて見つめると彼は笑った。

「んーとクレリックのあとの転職なんだけど・・・・まぁとりあえずクレリックになるよ。」
「へ〜〜癒し屋さんだね!」

そういうとRazaくんはふと気づいたように

「ヨハネちゃんは?」

そうたずねてきた。

「オラクル・・・・とか言うと思う?」

あたしが笑いながら言うと彼も笑った。

「それじゃウィザードかぁ。ふむ・・・そしたらボクがヨハネちゃんの事

守って上げられるから調度いいね。」

そういわれて反抗する。

「だーめーなーの〜〜〜〜あたしがラザ君守るの!」

そう言うとクスクス笑い出した。多分あたしがそう言う事くらい

分かってたんだと思う。

「それじゃヨハネちゃんには戦ってもらって、ボクがヨハネちゃん助ければいい。

ね?」

そういわれて今度は素直にうなずく。

「がんばる!あたしがラザ君守るの。いつも守ってくれてるラザ君守れるようになるの。」

そう言うあたしに穏やかに、本当に穏やかに微笑んでくれた。

 

 

 

 

「本当に一緒に行かないの?」

「やだ!怖いもん!」

 

数日後、あたしは久しぶりに一人でいた。

理由は簡単にラザ君が本土に行くので留守だった。それだけだった。

転職の二文字が見え始めたレベルにいつの間にかなっていた事に、

いまいちまだ気づいてなかったあたしは

「本土=怖いところ」というイメージが強くて

まだ島から出る決意を決めかねて、ひたすら島北の毒蜘蛛を相手にしていた。

「はぁ。」

村に一度戻りspsを買いながらため息をつく。

いかに今まで彼に助けられてたかを思い知ったのはもちろん、

一人での狩りがこんなに心細いものだなんて

彼と会うまでは当たり前だったのに。

「はぁ〜・・・・・」

もう一度深くため息をつきながらアイテム屋さんを出る。

広場のモニュメントのとこに腰かけさらにため息をつく。

「はぁ・・・・・・・・・・・。」

今日はもう狩りをやめてエルピーとでも戯れてこようかと思ったときだった。

「・・・・?」

急に日がさえぎられて顔を上げる。

「・・・・・・太い足?」

目の前にあるものをとりあえず言葉に出すと上から声が降ってきた。

「やっぱりヨハネさんだ。」

その声にもう少し顔を上げると覚えのある顔があった。

「猫さんだ〜」

ラザ君に会うよりもっともっと前にオークに追われてたあたしを助けてくれた猫さん。

滅多に会う事はなかったけれどなぜか印象に残っていて顔も名前も覚えていた。

「こんにちは。どうしたんですか?」

そう言われてため息をつきつつ答える。

「相方が・・・本土買い物にいっちゃって・・・暇。」

そういうと少しぽかんとして彼は笑顔を見せた。

「それじゃぁ久しぶりに一緒にいきますか?」

その言葉にさっきまでの凹みはなんだったのか、

一瞬にして自分の顔が変わったのがわかった。

「はい!」

そう答えると笑顔のまま

「ちょっと用事済ませてきちゃうんで・・・

エルフの遺跡前に先に行っててもらえますか?」

「はい!」

「じゃまたあとで。」

そういって彼は姿を消す。あたしは立ち上がり遅い足で

遺跡へと走り(歩き?)出した。

遺跡が見え始めると、遺跡前の復活スクロール屋さんが

居眠りしているのが見えた。

あの頃は遺跡前に露店を開いている人がたくさんいた。

あたし自身、なんどかお世話になった事もある。

天気もいいぽかぽかしたお昼寝には最適な暖かさだ。

居眠りするのも当たり前かと一人クスクス笑っていた時だった

「・・・・・?」

一人の男が眠っている露店のおじさんの後ろに立った。

そしてあたしがその場にたどり着く寸前、

「うっ・・・・・」

「?!」

目の前で倒れる露店のおじさんと返り血をぬぐう男。

「なっ・・・・・」

あたしがそのおじさんにかけよるとその後ろで再びうなり声。

振り返った時にはその向かいにいた露店の少年が倒れていた。

唖然として、頭が回らなかった。ただ、ひたすらおじさんにヒールを続けたけど

もう手遅れである事実だけは不思議と認識できた。

 同時に、目の前で平然と剣についた血を振り払う男が「人殺しだ」

ということだけは分かった。

『次はあたしか・・・・?』

そう思いながらも男にかまわず少年にかけより、首に手を当てる。

もう脈は感じられなかった。

 人の死を目の当たりにするのも、目の前で人が殺されるのを見るのも初めてだった。

なのに、意外に冷静な自分がそこにいた。 

遺跡前の通り魔の話は近所のおばさんが話していた覚えがある。

そして見たらすぐに逃げろと言われた事も思い出した。

だけどあたしは逃げもせずにシーダスタッフを握り締めて顔を上げた。

男と目が合い、剣に手をかけた。・・・その時

「ヨハネさん〜おまたせ〜」

後ろから猫さんの声が聞こえた。

「猫さん・・・」

わずかに視線をずらした間に男がきびすを返す。

「え・・・」

遺跡の中に駆け込んでいく男。状況整理ができないまま、

すこしづつ怒りがこみ上げてきた。

いつ誰が殺されてもおかしくない世界。時代。そんなの分かってる。

でも・・・だけどこんなの嫌だ。常識とか当たり前とかそんなの関係ない。

あたしは今ここで起きたこの現状が「イヤダ」

「え・・・何これ・・・・」

「・・・手遅れ・・・あたしのヒールじゃ間に合わなかった・・・」

あたしのそばまで来て回りを見渡し驚く猫さんに短く伝える。

「人殺し・・・今遺跡に駆け込んだ奴・・・!」

とっちめるの手伝ってと言う前に彼は走りだしていた。

その後をあたしも追う。

こんなとき、自分の足が速かったらと思う。のろのろと神殿に駆け込み、

猫さんの姿を探す。

やっと暗さに目が慣れ、彼を見つけた時にはさっきの人殺しを猫さんが

追い詰めたところだった。

「違うんだ!待ってくれ!」

「何が違うんだよ・・・!」

「俺は人殺しじゃないんだ!」

必死に弁解をしようとする男に低い声で言う猫さんが見えた。

いつものほえ〜っとした穏やかな表情は消えうせて、

怒りを完全に表に出した横顔が見えた。

「・・・・この位置なら・・・!」

あたしは迷わず詠唱に入る。ほぼ同時に猫さんが短剣を構えた。

 

Ne bara Rokina(共に歌え精霊達よ)・・・・!』

「・・・・ぐっ。」

男が何かを取り出したところで、そのわき腹に猫さんの技がヒットする。

しかしあたしの魔法が当たることはなかった。

「?!」

あたしのウインドストライクは壁に飛び散った男の血を吹き飛ばしただけだった。

男の姿は忽然とその場から消えていた。

「逃げた・・・帰還しやがった・・・」

その猫さんの言葉に

「追います!」

そう迷わず自分も帰還スクロールを出す。

発動させるとすぐに猫さんもスクロールを開いた。

 

一人の時間・最初の贈り物(前編)