一人の時間・
最初の贈り物(後編)

「ふ〜」

すっかり夜になった村をてろてろと歩きつつ、ふとラザ君をを迎えに行こうと思いつき

港の方へ行こうと微妙に筋肉痛の重い足を引きずり始めると後ろから声をかけられる。

「ヨハネちゃん!」

声で誰だかはすぐにわかる。振り返って顔も確認せずに飛びつくと顔の右から

困ったような笑い声が聞こえた。

「おかえりなさい!」

「・・ただいま。」

おっきいバックを背負ったまま、空いた方の手であたしの髪をなでてから

「ヨハネちゃん;人が見てるから;;;」

そう小声で言われてしぶしぶ離れる。

「おかえり!」

もう一度笑って言うと

「うん。」

と彼も笑顔で答える。そう笑う彼の腰には、昨日まではなかった二つの剣が下げられて

いた。

 

「−でね、事情聴取終わってラザ君迎えに行こうと思ってたの。」

適当なとこで食事をとりつつ事のあらましを説明すると彼はそわそわしながら

「そか、大変だったね」

と気のない返事をした。

「・・・ラザくんどしたの?さっきから。おトイレなら行ってきなよ?」

そう言うとぽかんとしたあと苦笑した。

「いや、違うよ。」

そう言ってから、少し姿勢をただしてあたしをじっと見てきた。

「にゅ?」

戸惑いながら首を傾げるとラザ君はおずおずと話し始めた。

「ヨハネちゃん、怒らないで聞いてね?」

「?うん。なぁに?」

「ヨハネちゃんの次の武器、エヴァの涙買うって言ってたよね?」

あたしがこの頃持っていたのはまだシーダスタッフで、レベルのわりに武器は

しょぼかった。 理由はよく覚えてないが、常に貧乏だった気がする。

「うん〜でもまだ先遠いけどね;」

そう答えるとまた少し黙る。

「?どうしたの?」

そう顔を覗き込むとまだ

「怒らないで聞いてね?」

といわれた。

「怒らないよぉ、どうしたの??」

彼は短く息を吸い、覚悟を決めたように話し始めた。

「あのね、今日本土行って買い物にグルーディオ村に寄ったんだけど」

「グルーディオってどこ?」

「んと本土で露店で武器とかいっぱい出回るところなんだけど」

「ふみゅ。」

「それで、自分の武器とか見てたんだけどね、その・・・エヴァの涙があったんだよ。」

「うん。」

「それが100kだったんだけど・・・」

今でこそ90kとかでも買えるが当時、エヴァの涙の相場は130kくらい。

随分お得な金額だ。・・・・まぁ・・・・その場にいたとしても所持金足りないけど。

「へぇ〜安いねぇ〜。」

「うん。それでね、ヨハネちゃんに買って行こうか悩んだんだけど。でも

ヨハネちゃんってお金貸すって言っても嫌がるし、帰還スクロール一枚でも

あげるって言ってもお金渡すし、もらってくれないかなーと思ってね。」

当然だ。というか一人でずっと生きてきてたし人に何かをしてもらう事が苦手

だった。自分は何かをしてあげる側の人間であるべきだと思っていたし、

生まれてきてはいけなかったあたしの、「生きている罪」から少しでも

許されたくて・・・・人に頼る事は極力さけたかったから。

「うみゅ。」

「それで・・・どうしようか悩んでてね、そんなに安くなんてそうそう買える

もんでもないし、でも受け取ってもらえなかったら寂しいし。」

「あはははは;」

「それで二時間くらいその露店の人の回りぐるぐるしてたんだけど」

「二時間?!」

思わず叫ぶと他のお客さんたちが一斉にこっちを見る。

顔を赤くしてちっちゃくなって座ると苦笑しながら彼は話を続けた。

「でーそうやってうろうろしながら悩んでたんだけど。」

「・・・ごめんね?」

「え?」

「いや・・・あたしの事でそこまで悩ませて。」

「ううん、それはボクが勝手に悩んだ事だからいいんだけど。・・・それで、

ずっとそこにいたらその露店の人が看板に何か書き始めたんだ」

「うん」

「『エヴァの涙80kで売ります』って書き直ししてたんだ。」

「やす!」

当時の相場だとかなり破格な値段だ。今でも80kであれを見つけるのは運がよくないと

無理なくらいだし。

「でしょ?で、迷わずくださいって・・・・」

そう言って言葉を詰まらせる。

きょとーんとした顔をしてると少し間をおいて再び話し始める。

「普段衝動買いとか絶対しないんだけど、あげたら喜ぶかなって思って、安かったし・・・」

それはよく知ってる。彼がいつもコツコツコツコツ貯めてるのも知ってるし、500円玉貯金

とかしたら1年で絶対貯めてきそうなタイプだったし。

「受けとってもらえる?」

そう上目使いで困ったように言う彼が、珍しくてまだきょとーんとした顔を

していたが、逆に嬉しいのとおかしいので表情を崩した。

そして自分のお財布を見る。

「んーと・・・今32kくらいしかないんだけど・・・ちょっとづつ返していけばいい?」

そう言うとほっとしたような様子を見せてからあたしの傍らの杖を指差す。

「シーダスタッフが50kくらいで売れるから、それと差額の30kでいいよ。

ボクがまた本土行くときに露店で売ればいいから。」

「え・・・いいの?お願いして?」

「うん、ヨハネちゃん露店の権利書まだ持ってないでしょ?」

そういいながらバックから紙袋に入ったそれを出す。

「はい、大切に使ってね。これで少しは狩りが楽になるはずだから。」

それを受け取り、杖とアデナを渡す。彼にOKをもらってから袋から

出してみる。

「うわぁ・・・・」

年期が入ったカンジの古ぼけて使い込んだ跡のある本。持ってみてシーダより強い魔力

が入ってるのはすぐに分かる。

「ありがとう!」

そう言って笑顔を向けると彼も笑顔で

「いえいえ」

と答えた。

初めて彼から素直に受け取ったモノ。

そしてそんなあたし達の様子を彼から最初で最後に無償で受け取る事になる

あの二刀だけが静かに見届けていた。