覚悟のとき

『ラザ君へ  やっとレベル19になれたよ。神殿のみんなも本土に行くべきだって

 そう言うんだ。あたしは怖がりすぎかな?でも、そろそろ決めないといけないとも

 分かってるの。でも・・・知らない世界はやっぱり怖いよ。もう少し一人で考えてみる。

もし、あたしが決心できたらまたお手紙書くね。

           ヨハネ・スリエル』

 

『ヨハネちゃんへ。  レベルUPおめでとう。もう転職の為の試練を受けられるように

なったはずだけど・・ヨハネちゃんはエルフ村に行かなくちゃいけないのかな?それとも

ヒューマンの試練でいいのかな?村の大神官さんに聞いてみてね。もしかしたらあっちで

連絡つけてくれてヒューマンのクエストで大丈夫かも知れないから。

もしだめだったらエルフ村まで一緒に行くよ。

 怖がらなくて大丈夫だよ・・・って言うの何回目かな。でもゆっくり考えて見ていいと思うよ。僕はここで待ってるから。

          ラザ』

 

 

「・・・・・はぁ。」

ラザ君からのお返事を読んでため息をつく。ラザ君は本格的に本土で修行を始めて

あたしはまだ島の北端で蜘蛛を倒す日々が続いていた。

寂しくないといったら絶対嘘だ。でも、好奇心よりまだ見ぬ土地への恐怖の方が

強くて。島から出る事ができなかった。

ただ、このままじゃいけない。そんな焦りにせかされ始めているのも事実だ。

「あれ?ヨハネさん・・・だったよね?」

「え?」

顔を上げると、見覚えのあるヒューマンの男の人が立っていた。

「あ、えーとリグテクスさん?」

「覚えてくれてたんだねー!嬉しいなぁ〜」

以前、ラザ君と一緒にいたファイターの人。一度会って以来ずっとあっていなかった。

「どうしたんですか?というかその格好は・・・」

以前着ていた軽装備はふつーの洋服になり、手には剣の代わりにオノが握られている。

「あーあの後ちょと身内に不幸あってねー。色々考えて家継ぐ事にしたんだよー」

そういいながら苦笑する。見た感じ、庭師か何かなのは分かった。

「ヨハネちゃんは?順調に成長してるかい〜?」

そういわれ言葉を詰まらせる。

「どうしたの?」

「・・・リグさんは本土って行った事ある?」

そう聞くと少しきょとんとしてから笑い出す。

「俺今本土から戻ってきたとこだよーえ、本土がどうかしたの??」

「初めて一人で本土行ったのってレベルいくつくらい?てか何歳の時?」

そう続けて聞くと少し考えてから答える。

「12〜くらいだったかなー年は15だったと思うけど。どうかしたの?」

あれだけ怖がっていたのに、迷っていたのに、決める時は一瞬で決まるものだ。

「ごめん、リグさんまた今度。話聞いてくれてありがとう!」

そう言って駆け出す。

「え、あ、えぇ???

ぽつんと一人リグさんを残し、あたしは居候させてもらっている家へと駆け込む。

 

「おばちゃん!船の時刻表ある?」

そう、入るなり言うとお世話になっているおうちのおばちゃんは首をかしげながらも

ごそごそと時刻表を出してきてくれた。

「どうしたんだい?いきなり・・・」

そういいながら真剣に時刻表を見るあたしを不思議そうに見ている。

「・・・おばちゃん。あたし本土行く。」

「・・・また突然ねぇ・・・・」

そういいながらも怒る様子もなく笑っている。

「いっぱいお世話になったのにイキナリでごめん。でも、行く気になった今動かないと

きっとあたしずっと島から出られない。」

そういうとにっこり笑って言う。

「えぇ。気をつけていっておいで。たまに顔出しに帰ってきてくれればいいよ。」

「ありがとう。」

あたしも笑顔で返した。

「約束は・・・守ります。」

「えぇ、分かっているわよ。頼むわね。」

そうおばちゃんに言われてゲンキに返事をする。そしていそいそと部屋に戻り。

手紙を書き、それを速達で頼むと荷物をまとめた。今からなら夕方の便に間に合う。

 神殿への挨拶をすませ、大神官さんにもらった紹介状をバックにしまいこみ。

あわただしくあちこちへと走る。友達が少なかった分、そんなに時間はかからなかった。

 

見送りもなく、港に立つ。船が近づいてくるのが見えた。

「お手紙。。。とどいたかなぁ・・速達でも辛いかなぁ・・・。」

そう呟きながら到着した船に乗り込む。乗客はあたしの他に2人いるだけで

壁に寄りかかって寝ている人たちのジャマにならないように海を眺める。

だんだん遠くなっていく島を見つめながら、思っていたより感傷的にはならなかった。

むしろ、早くつかないかなと翌日までとは裏腹に好奇心がうずいて仕方なかった。

 

その頃

「お、手紙が来ていたよお客さん。速達で。」

宿に戻ったラザ君が、あたしからの手紙を受け取ったところだった。

『ラザ君へ

 本土に渡る覚悟ができました。思い立ったが吉日というので今日の夕方の便で

本土に行きます。急なので手紙とあたし、どっちが先に着くかな?

     ヨハネ・スリエル』

手紙を読み終えて彼はそのまま時計を見る。時刻は5時少し前。船の到着時刻は

5時25分頃。

手紙を綺麗にたたんでかばんにつめて、彼は港へと走り出した。

 

『間もなく、グルーディン港に到着いたします。忘れ物のなきようにお願いします。』

船員の人の声で振り返り足元の荷物を手にとる。

広い丘と村らしき若干崩れた塀が遠くに見える。

「ついにきたんだ・・・・アデン大陸・・・・!」

意味もなく叫びたい衝動を抑えつつ港に着くのを待つ。

『グルーディン港に到着しました。15分後に話せる島へ出航いたします。』

 

他の乗客が降りてから恐る恐る港に足をつける。荷物を持ち直し周りを見渡す。

「村はあちらの方ですよ。」

船員さんの親切に微笑み「ありがとう!」と応えゆっくりと歩き出す。

Hail hory queen and throne abouve・・・Oh Maria・・・

Hail mother of mercy and of love・・・Oh Maria・・・

回りを見ながら小声で歌い歩く。段々声が大きくなってるのはキノセイだ。

Triumph all ye cherubin・・・Sing with us sweet serafin・・・・

Heaven and Earth resound the hymn・・・Salve・・・Salve・・・」

「ヨハネちゃん!!!」

声のした方に顔を向けるとマンティコアレザー上下の彼の姿が見えた。

「ラザ君!!」

姿を見るなる荷物を放り出してとびつく。懐かしい感覚。背中に回された一番大切な

親友の腕を感じ、落ち着くとそっと離れる。

「えへへ。着ちゃった☆」

そう言うあたしに笑うと頭をなでる。

「ようこそ、アデン大陸へ。」