「Raza」

 

彼と会ったのは確かあたしがレベル10になるかならないか位だったと思う。

もともと不器用で考えナシなせいか、多分同期の人よりレベルの上がり方は遅かったと思う。
何より島で生まれ育ったエルフのあたしは、
15になったらあたしにもヴァンパイア教えろ〜〜〜〜〜!」などとよく神殿でわがままを言い、
その度にリリスのお姉ちゃんに「エルフが黒魔法覚えてどうするの!」と怒られてた覚えがある。
その日もリリスお姉ちゃんに怒られて、むぅ〜〜〜とか言いながら
島の北へゴーレムさんを退治に行っていた。

 魔力を空っぽにしてのんびり木陰で休みながら目の前の野郎二人組を眺めていた。

一人はヒューマンのファイター。一人はヒューマンのメイジ。
蜘蛛を相手に大立ち回りをしている二人をぼーと見ながら
「きっとこの人もヴァンパイアを使えるようになるのだろう」とか
身勝手な恨みを持ちつつ見学をしていた。
そのうちメイジの方は帰還スクロールを使ったのだろう、
その場から消えファイターの方がこっちに寄ってきた。

「こんにちは!」

妙に馴れ馴れしく声をかけてきながらあたしの横に座る。

「こんにちわー」

こっちも負けずに明るく返す。

「お姉さん一人〜?」

いわゆるナンパというヤツですか。

「ですよー。お友達は?」

そう消えたメイジの事をたずねる。

「ぇー俺よりラザの方がいいの?」

「いやあの・・そう意味でわ・・・・」

あまり友達もいなかったあたしは正直戸惑う。
話下手、人見知り、そこまで大げさなものではないにしろ人と話す事にあまり慣れていなかった。

「俺にしとこーよ。ね?俺リグテクス。」

「あ・・・ヨハネ・スリエルです。」

「ヨハネちゃんかーかわいいねぇ〜エルフはヒューマンと違って色気が・・・・」

などと返答に困る会話をしばらく続けていると人の気配がした。

「・・・何してるのリグテクス」

さっきのメイジがリグテクスさんの後ろに立って呆れた顔をしていた。

「おかえりー。いやエルフって珍しいからついつい声を・・・」

そうリグテクスさんの言葉が終わる前にあたしは毒舌を吐く。

「セクハラトークでいじめられてました。(きっぱり)

少しの沈黙そして笑い出すメイジ。

「駄目だよリグー。セクハラしちゃ。」

「えぇ?!俺はただエルフはヒューマンより色気が・・」

「それがセクハラなのです!助けてください〜!」

そうメイジにふざけて助けを求めてみたりする。
しばらくそんな風にふざけていたがメイジは笑いが止まるとあたしを見てきた。そして

「僕はRaza、ヒューマンメイジだよ。よろしく。」

そう言って手を出してきた。

「ヨハネ・スリエル、エルヴンメイジです。」

そう握り返す。横から

「あああああ俺とは握手してくれなかったくせにぃ!」

とリグテクスさんからの言葉に

「セクハラする人とはお友達にはなれません!」

と言うと再びメイジ・・・ラザ君は笑い出した。

 彼に会ったのはこの時が初めてだった。
あたしはこの時、アイスボルトの移動速度低下効果もスピリットショット・ソウルショットも、
その他もろもろほとんどよく理解しないままで魔法を使っていた。
何よりもまず「逃げる事」をしなかった。モンスとやりあってても「もう無理だ」と思っても
そのまま玉砕覚悟
(ってゆーか玉砕する気まんまんで)逃げる事ができなかった。
初めて彼にあった日。あたしはスピリットショットの存在を知った。

「えぇ?村の案内人に聞かなかったの???」

そう驚いた顔で尋ねられて

「うーん・・・聞いた覚えはあるんだけど理解が出来なかったってゆーか・・・」

そう答えたあたしに本当に分かりやすく教えてくれた。

「えーと・・・武器に【x0】とか書いてあるタグついてたよね?その数字が一回の消費量なんだけどね」

「うん」

「魔法で使えるのがSPS。殴るのに使うのがSS。
それを使うと威力が倍とかになるっていうものなんだけど・・・ここまでは分かった?」

多分・・というか絶対この時二人の狩りを邪魔しちゃってたと思う。
でも二人は嫌な顔一つせずに教えてくれた。特に彼・・ラザは優しく丁寧に教えてくれていた。

「へぇ〜〜〜〜すごいね!そんなのあったんだ!すごい!」

そう無邪気に単純に喜ぶあたしにやっぱり彼は笑うのだった。

 

やがて日も暮れ始めあたしはたくさんお礼を言って帰還スクロールを取り出した。

「それじゃぁ本当にありがとうでした!」

そう笑顔を向けたあたしにリグテクスさんは「またねー」といいつつへらへらと手を振っていた。
横のラザ君も「気をつけてね」と言ってくれた。でも、スクロールが発動する寸前、
「またね」そう彼の唇が動いたのをあたしは見逃してはいなかった。

 

あたしは今もそうだけど一箇所に長く狩場を固定することが多い。
この頃もまた、朝起きてから島の北のゴーレム地帯という習慣ができていて、
彼にあった次の日もやっぱり山をよじのぼってゴーレム地帯に向かっていた。

「せ〜〜の!」

山の上からいつも通り一気に駆け下りる。
滝川の入り口も東から迂回する道もあたしが通るには危険すぎたから。
・・・が。例え山からの道も決して安全なわけでもなくて。

「う・・・・うわああああああああ・・・・・ぴぎゃっ。」

途中でまともに足を踏み外し、とどめに顔をぶつける。まともに転げ落ち、
座ったまま半なきで泥を払う。

「うぅ・・・・痛い・・・。」

そうつぶやいたが。

A tallda rizhana(光を与えし偉大なる者よ)・・・ziephan・・・・!(その力を)

聞いた覚えのある声がした。そして同時に光が降り注ぎあちこちヒリヒリしていた傷が消えてゆく。

「ヨハネさん!」

顔を上げるとあわてた様に駆け寄ってくるラザ君の姿が見えた。さっきのヒールは彼だろう。

「ラザさん!」

まだ目元に残っていた涙を拭き笑って手を振る。

「大丈夫?・・・というかどこから落ちてきたの?」

あたしのそばにかがみ込み、顔を覗いてため息をついてからそう聞かれて
あたしは今落ちてきた山を指差す。

「あそこ〜。てっぺんから〜」

そうのん気に告げたあたしにまたため息をついてから苦笑する。

「危ないよ。」

そう言われてふくれつつ答える。

「だって・・・・滝側の入り口も東の道も蜘蛛さんいっぱいいるんだもん〜。」

「だ・・・だからって・・・山のぼって落ちてくるなんて・・・」

そう言ってからあたしの気づいてなかった髪についた枯葉を払ってくれた。

「むぅ」

そう言うあたしにやっぱり彼は笑った。この頃、あたしは彼を
「優しくてよく笑う人だ」そう思っていた。
まさかそれが「ヨハネに対して」だという事に気づいたのはずっと後の事。

「あれ?ラザさん一人?」

「え?ああ、うん。一人だよ。ヨハネさんも一人?」

「あたしあんまり友達いないから・・・」

今度はあたしが苦笑した。すると彼は少し考えてから立ち上がりあたしに手を差し出してきた。
あたしはその手に素直に掴まり立ち上がる。

「よかったら・・・少し組もうか?」

そう言われてあたしは笑顔を見せた。

「うん!ラザさんがよかったら。」

そう言ったあたしにうなづきつつ優しく笑う彼が
まさかあたしにとってかけがえのない人になるなんてこの時は思いもしなくて。
出会いの後には別れがある。そうどこか冷めた考え方を隠していたあたしは
「今が楽しければいい」そんな淡白な友達付き合いしかできなかった
(だから友達が少なかったような気もする)
だからこの時もただ、今日が楽しければいいそれだけで彼の手をとった。

 

                  

                 
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